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彼は『本物』
いまでは笑い話になっているこの『出会い』を友達にはなしたら、おいかけてほしくて《わざと席を立った》んじゃないかと言われたが、彼にはそんなことを考える理由はない。
ハンサムでどうやらかなりのお金持ち。
本人は口にしないが、きっと実家は上流階級なのだろう。
読書家で、書評や紹介文を雑誌に寄稿して生活している。
人とのつきあいが苦手なのでこの仕事を選んだと言っているくらいなので、ここまでの人生の過ごし方も察しはついた。
ほとんどを家族とすごし、すこしの友人とときどき会う。
恋人とよべるまでつきあった相手もなくここまできてしまった、と恥ずかしそうにはなす様子をながめ、彼は『本物』だとおもった。
誠実で控えめで、いつでもこちらのことを先に考えてくれる男。
友達はそんな『男』この世にいるわけはない、と信用してくれなかったが、現物がここにいる。
そしてそんな男が、金持ちだということを匂わせないように言葉に気をつかい、そういう関係が目的ではないと伝えながら、別荘に行かないかと誘ってきている。