車からおりた男
「いや、・・・きったない車だなって」
肩をすくめたときにドアがあき、こちらを見たままの男が近づいてきた。
その男をみつめたままサリーナはバイクをおり、ジュースをいっきに飲んだ。
ぼさぼさの長髪。
青いシャツにカーキ色のジャケット。
デニムパンツにランニングシューズ。
どれもがなんだか薄汚れた印象だったが、それらを身に着けている男は意外にもまともそうだった。
「 よう、おじょうちゃん。 道を教えてくれるかい?」
口の利き方にはムカついたが。
やわらかい発音の心地いい声。
三十なかばぐらいか。
スタンドのくらい電灯でみえた顔にはうちとけやすい笑顔がうかんでいる。
「 わるいけど、あたしたちクロイス州から来てるんで、ここの道はくわしくないよ」
「ああ、ちょうどいい。クロイス州に行きたいんだ」
この時間こんなところから?
「 ・・・今日はやめたほうがいいんじゃない?もう陽も落ちてるし。国道から行くにしても、違う道にしても、オススメできる時間じゃないよ」
コート州からクロイス州につづく道は三本。
海沿いか、まっすぐな国道か、山道か。
サリーナたちはこれからコート州の友人が経営するモーテルに泊まる予定だ。