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裂け目の底
『監獄』を想像して入ったそこは、小さな『部屋』だった。
窓はないが、ろうそくのあかりはあちこちにともり、歩いてきた場所よりもずっと明るい。
壁ぎわにはベッドも椅子もあり、奥には鍋ののったかまどもあり、衝立のむこうにはどうやら浴槽もありそうだった。
「・・・人間だ・・」
部屋の壁際におかれたベッドには、ぼさぼさの髪と髭をもつ人間の男が横たわっていた。
だが、ザックのいる場所から見ても、その肌色は、生きている人間のものではない。
シスターとジョーが横たわる男に祈りをささげた。
老女は、何かを思い出したように上をみた。
つられてザックも目をあげるが、そこには天井らしきものはなく、ただ黒い空間が上にのびている。
「なんか・・・前に見たノース卿のいやな『教会』みたいだなあ」
上をさしたウィルがその指で前髪をいじる。
「はなしにはきいていたが、モーティス山脈の『牢獄』とは、山の『裂け目の底』のことなのか?」
腕を組んだジョーは、ベッドと部屋の隅に置かれたおおきな荷物をみて、ため息をついた。