出てきてる
「《人間》のことは見張るのに、《背中鬼》のほうは、どうでもいいわけ?《人間》を、おそってるっていうのに?」
あきれたようにウィルが前髪をはらう。
「 『人間をおそう』 ?」
シスターが、首をウィルからジョーにかたむけ、そりゃ無理よ、という。
「 ―― ありえないわ。 《背中鬼になった精霊》には、そんな力ないし、この《湿地》から出て人をおそうのを《判決》で禁じられているから、破ったりしたらこの世から消えることになってるからね。 ときどき、《湿地》に来る《人間》をおどかすことはあるけど、それもただのイタズラよね。 むかしみたいに、おいかけて穴に引き入れる《力》もないわよ。 まあ、事故で『穴』に落ちてしまった《人間》は、《背中鬼》がとっていいことにはなってるけど、たいした数じゃないしねえ。 ―― だから、いまだに山の奥に捉われたまま、生きてるわ」
首をふるシスターに、ザックが食べかけのパイをつきだした。
「 だから、 それ、『事故』じゃねえんだって。 《背中鬼》が、そっから出てきてるんだって。なあ、その山の中の牢屋調べてくれよ。 そいつ、出てきて《人間》を追いかけてるんだからさ」
「《コウモリ》も、『人間の魂のかけら』から、この《湿地》で《人間》をおいかける《背中鬼》を見たといっている」
ジョーの言葉に、すこし考えるように首をまげたシスターが、両手を合わせて指と指を何度か組み合わせ、振るように動かした。
『 なにか ようか? 』
「うあ!ネズミがしゃべった!」
いきなり足元にでてきたネズミを、よけるようにザックが両足をたかくあげ、叫んだ。




