当たってけ
「・・・ってことは、気持ちを伝えるかどうか、 ってことを、迷ってるところ?」
腕をくんだウィルが、意外だといわんばかりの顔をむけると、みかえす目が、不安げにゆれた。
「いや・・・。その、伝えるとかそういうまえに、・・あきらめたほうがいいかなって・・」
「・・・・え?・・」
『あきらめる』?
おまえが?
またしても小さくなったザックはテーブルに顔をつけると、「・・おれさあ・・」と小声ではなしはじめる。
「 いままで、好きになった子はたくさんいるけど、ちゃんとつきあったこと、ないんだよ。 ガキのとき、同じ学校の女の子と何度かデートのまねみたいのしたことはあるけどさ。 こっちはそのまま付き合うのかな、って思っても、すぐに振られるし・・・、けっきょく大勢でいることのほうが多かったし。 で、専門学校はいってからは、休日なんて自分と家族のためにつかったら、もう終わりだろ? だから、―― とりあえず、 どうしたらいいのかもわかんねえんだけど、 それ以前に、こういうのって、 ・・・言われたら、迷惑になるんじゃないかって、思ったりして・・・」
「おまえさあ・・・」
おもわず腕を伸ばし、テーブル上の頭をたたく。
「考えすぎだよ。いろいろ。 迷惑なんて思うわけないだろ?」
ケンは愛情表現がレイにだけ激しいのだが、ほかのみんなにも同じように愛情をもっているのはわかっている。
たしかにむかしは《さめたガキ》だと思ったこともあるが、それは表現の方法を知らなかっただけだ。
「 だいたい、おまえが『あきらめる』なんて、似合わないって。 ―― ダメだってわかってても当たっていくタイプなんだから、おもいきり当たったほうがいいって」