ウィルぼっちゃま
「おまえがいるとこでなんか話さないよ」
ひどく不機嫌なウィルが手を振り払う。
ジョーが暮らしているのは、この男の父親が所有する農場だ。
ウィルの父親、ピエール・デ・サウスはいわゆる《貴族様》なのだが、初めて会ったときからこちらに弱みをみせ、息子のことを頼んできたその姿は、ただの《父親》であり、そのときからジョーはサウス卿を信用している。
そしてその息子のことは十年以上みてきている。
当時、まだこどもだったウィルはすでに《貴族》としてのふるまいを心得、大人社会で過ごす時間の多さのせいか、他人の本質を見抜く能力に長けており、自分の本質をかくすことを、すでに覚えていた。
父親の農場にいつのまにか住み着いた《酒臭い男》に対して、初めは警戒と蔑みと反感しかみせなかったのだが、ジョーに射撃の腕前をみせられ、こどもらしい称賛と好奇心はおさえられず、用心深く歩み寄ってきた。
「ねえ、その銃、ちょっとだしてよ」
「なぜ?」
「みたいからだよ」
「そういうときは、『みせてほしい』って言うんだ。『だせ』じゃなく」
「みせてよ」
「それは命令か?」
「命令?ちがうって。―― みせてください。ミスター・コーネル」
「ようございますよ。ウィルぼっちゃま」
農場を、サウス卿から任されているトムの口真似をしてわたすと、はじめてジョーに笑顔をむけた。




