№20 ― ジャンの母親 ―
「あのこったら、うまくやれてるかしら?」
「そりゃ、もちろん」
ルイはだされたお茶に口をつけ、マリアの顔をみた。
会社の催しやレイやウィルのパーティーで、A班は、ジャンの母親には、もうすっかり顔なじみにはなっている。
マリアの眼はグレーがかったきれいな眼で、色白なその容貌は、若いころからもちあわせる神経質な面を内側から漂わせ、うすい唇には常に不安そうな笑みがうかぶ。
「ああ、ケンはちがう飲み物がよかったかしら?」
カップに手をつけない男をみて、あわてたようにきく。
ソファにおかれたクッションにはマリアが刺繍をほどこしたカバーがかかり、そこに記された聖堂教のおしえを、つまらなそうにながめていた顔をケンがあげた。
「いや、お茶で。それより、おれたちちょっと、ポールの部屋に用があんだけど」
お茶の存在を無視した男は指で天井をさした。
「ええ、ポールからきいてるわ。さがしものをしてくれるんでしょ? ジャンとおなじ事件を担当することになったってきいたけど、 ―― なら、あのこが探しに来ればいいのに。兄弟なんだし、あなたたちの手をわずらわせることなんてないのに」
いいながら思い出したように席を立つと、台所の棚の中からクッキーの缶をとりだしてリビングにもどってきた。
「おれたちのほうがヒマだったんです。 知ってます?ジャンはうちの班の副班長なんですから、けっこう忙しいんですよ」
ルイはケンにクッキーの皿をおしつけるようにわたした。
受け取った男はしかたなさそうにつまみあげ、かじる。




