『ついてない』
「 おれはこの人の手当てで手一杯さ。 ―― すぐに来てくれてたすかったよ」
そういって微笑んだ顔をみて、『わざとだな』とトビーは思った。
たしかに、腕を撃たれた店主は年寄で、苦しそうにはしているが、止血の手当てはすんでいる。
被害者を落ち着かせるのは、もちろんいちばん大事なことだが・・・。
脚を数発撃たれた犯人は、泣くようにうめいていた。
たしかに、大きな血管は無事なようだし、骨も折れてはいないだろう。
こんなの、上から強く押しておけば問題ないな、と思い、フォーネルは半泣きの強盗に、出血場所に自分で布を強くおさえるように指示した。
「ポールに出会っちまったんじゃ、こいつもついてなかったな」
相棒はどうやらこのポールという『刑事』を知っているようで、めずらしく犯人に同情するような目をむけている。
「ついてないのはおれのほうだよ。 家に、洗剤を待ってる洗濯ものと、ビールを待ちわびてるおふくろがいるんだ。おれの携帯はさっきから、おふくろの催促で何度も鳴ってるし、今日の野球中継はもうすぐ終わる」
「あんたまだおふくろさんと住んでるのかい?」
「病気なんだよ。一人じゃいられない病」
相棒とふたりで笑いあってるところに、救急車が先に到着した。