違う理由
頭をかきまぜるように髪をなでまわした男が、わかってる、と低い声で答える。
「・・・おふくろは、しばらくして別の男と結婚して、おれがうまれた。 そいつはおれの泣き声に我慢できなかったらしく、すぐに出て行った。 うちのおふくろは、その状況にうまく対応できなくて、・・・おれはほとんどポールに育てられたようなもんだ。 ―― いつでも、どんなときでも、おれはもちろん、おふくろのことも我慢強く見守っててくれた。いい兄貴で、おれとおふくろが今日までどうにかやってこられたのも、あいつのおかげだ。 でも、それに気づけたのもあとになってからだ。 たしかに自慢の兄貴だったけど、おれだって、そこそこの『実力』があるから、ポールにとっても『自慢の弟』だろうって、勝手に思ってた・・・。 ―― あいつと、ほんとの兄弟じゃないって知ってのは、十歳になる前だった。ほら、どこにだってそういうお節介なのがいるだろう?聞かされたときは信じなかったし、だまされるもんかと思ったのに、・・・十歳の誕生日をむかえたあと、じわじわ、そのはなしがおれの胸のなかに、おかしなふうに、ひろがっていった」
ジャンは、自分をみつめる全員に困ったようにわらう顔をみせた。
「歳がはなれてるから、ほかの兄弟とはちがうんだって、考えてたのに、もしそれが、血がつながってないから、っていう理由だとしたら?って考えたんだ」
「よけいな考えかただ」
ニコルがはさんだ言葉に片方の肩をあげてみせた。