らしく ない
ジョーが、殴られてまだ床に転がっている椅子と《ポール》を立たせて「なぜ、コウモリになってよけなかった?」とにやけた顔できく。
「―― あそこで、おれが殴られるのをみんな欲したろ? だから身体が動かなくなって」
「おれに嘘をつくな。契約違反になるからな」
「・・・・」
黙り込んだ《ポール》に、倒れた椅子をひろったジャンが近づき、「うちの新人がすまなかった」とわびる。
むこうの机の上で胡坐をかくサリーナがあきれたように眉をあげ、ウィルやルイと視線をかわす。
椅子をさしだす男の顔をみつめながら、こわごわと《ポール》がそれに座る。
みとどけた男は、感心したようにサリーナのすわる机に腰掛け、つくづくと眺めた。
「 ほんとに、兄貴にそっくりだな。 ああ・・・ポールとは血はつながってない。なのにあいつは、おれたちのために自分の人生をずっと犠牲にして生きてるんだ。 ―― おふくろが最初に結婚したトッドには連れ子がいて、それがポールだ。 トッドはおふくろと結婚して二年もしないで死んだ。 おふくろが偉いのは、ポールを自分のこどもとしてしっかり育てようって思ったところで、ポールの偉いところは、それに不服も申し立てず、残ったところだ」
「おいジャン、おまえらしくないぞ」
ニコルがいさめるようにわりこんだ。