きらいだ
ザックは、そんなつもりなかったのに、おもわずジャンを振り返ってしまった。
腕を組んで、うつむいた男が目にはいる。
取り返しのつかない失敗をした気分だった。
「 ―― ザック、お前はなにも悪くないから、そんな顔するなよ」
ゆっくり顔をあげたジャンと目が合う。
なにか言いたかったが、言葉がでない。
「『違反』じゃないさ」
後ろからした声にザックは振り返った。
椅子に座っているのはもう、《小柄なジョー》ではななく、《ポール》だった。
その姿で《コウモリ》は、ジャンをゆびさす。
「あの男はそれを知ってるし、そのことをいつだって気にしてるんだ」
「っこの!」
とびかかったザックごと椅子が倒れ、ジョーが止める前に《ポール》の顔が殴られた。
二発目をいれる寸前にニコルに腕をとられ、もちあげられる。
「くそ! おまえが変なこと言うから、クラークが『連絡禁止』とか言ったんだ」
ニコルに抱えられたまま、殴りたりないように腕をまわす。
「ザック、もういい」
ジャンがいつもの倍、優しい声でたしなめた。
「よくねえよ!こいつのせいで、ポールが疑われるとか、間違ってるよ」
「ザック」
「そりゃ、おれが悪いけど、でも、おれ、おれ、 ―― こいつ嫌いだ 」
にらんで告げるとニコルの手をはらい、トイレいく、と部屋を出て行った。