私有地につき
「『縄張り』の《湿地》をさまよう人間をおいかけてつかまえるのから、一人で山にのぼったり、さびしい場所をうろつく人間にまで《背中鬼》が手をだしはじめると、人間は《そういう場所》に子どもがひとりでいかないように、『童謡』にしたり、『こわい言い伝え』にして注意をうながした。 《魔女》たちも、このころにはもう、知らないふりもできなかったから、《背中鬼》も法にしたがって山の中にとじこめられた。《湿地》はいまでも《背中鬼》の縄張りだが、そこから、やつが勝手にでられないようにしたはずだ」
「おれもそう思ってた」
小柄なジョーが大柄なジョーを指さす。
「 ―― だけど、ターナーの目玉はしっかり、あの湿地までずっとおいかけられて、ヤツに捕まるとこまで見てたさ。 おれも《背中鬼》なんて、ガキのころに『裁判』にかけられるとこでしかみたことないが、ターナーをおいかけてくるヤツの姿なんて、すっかり変わり果てて、ひどいもんだったぜ。 顔の皮は目のまわりぐらいしか残ってないし、身体のほうも骨が変形しちまったようで、二本足で歩くカタチじゃなかった。体毛が髪ぐらいみっしり生えてるし、 ―― あれじゃあもう、《鬼》っていうより、《精霊》だ」
「そうか・・・とじこめられて先祖返りしたのかもな。 《精霊》だったものが山のふもとをきりひらいて暮らし始めた人間たちに《氷鬼》とよばれるようになり、さらにその人間とうまくいかなくなって、湿地で人間を捕まえるような《背中鬼》にまで格下げされたんだ。 ・・・言いたいことはわかるが、ザック、あの《湿地》は、もともと《鬼の縄張り》だから、むこうの『法』でゆくと、《湿地》に勝手にはいった人間が悪いということになる」
ジョーに不満いっぱいの顔をむけたザックは、『私有地につき立ち入り禁止』って看板たてときゃいいのに、と意見をだし、若い警察官三人もうなずいた。