№17 ― 初めての警察署 ―
ザックが州警察の本部に入るのは、これが初めてだった。
一歩入ったとたんに、自分の会社がいかに資金にめぐまれた環境なのかを、思い出した。
うす暗い電灯。置いてもすぐに電話が鳴りだす受付と、古いベンチでなにかを待っている疲れた顔の人たち。
すこし奥からは、なにかを抗議する声となだめる声。
みわたした机の群れには、書類をさわり電話をしながらPCにむかう制服の警察官たち。
自分の故郷の警察署を思い出した。
大きな声では言えないが、こどものころ何度か世話になったこともあるので、奥にみえるガラスの仕切りの中がどうなっているのかも、だいたいの想像がついた。
受付の警察官は、電話の会話を続けながら、ザックの隣に立つ大きな男をみあげている。
Tシャツに、この時期はもうあわない厚手のネルシャツをはおり、汚れた眼鏡をかけた大男は、受付のメモ帳をひきよせると、いっしょに置いてあったペンで、なにかすらすらとかきつけ、電話中の警官にみせた。
眉をよせてそれをみた警官は、驚いた顔で三人の男をあらためた。電話をいっしゅん離し、「だれか、防犯課に案内してやれ」と奥にさけぶ。
だれもすぐに反応しないところで、「迷子たち、こっちだよ」と女の声がして、くらい廊下の奥に赤い髪の女が現れた。