ありえない
机や椅子にこしかけて、それぞれ手にしたコーヒーを味わう人間たちをみまわし、口もとを、もぞもぞうごかした《ポール》は、「この男、」と、自分をさしてから、口をとじた。
目があったルイが、「とりあえず、信じてもらえるように、正直にはなしてみたら?」と微笑みかける。
どうやら、ルイのことを信用しようと決めたらしい《ポール》は、カップを両手でかかえこみ、咳ばらいをした。
「 ―― この男が、・・・《湿地》にいるのを、何度もみかけたんだ。 とんでいって、上からみた程度だけど、それでもこの男を、 ―― 五回以上は、みかけてる」
「 そりゃあ、ポールはあそこで『行方不明者』の手掛かりを、さがしてるからだ」
優秀な犬といっしょにターナーの義眼だってあそこで見つけたんだ、とニコルが複雑な表情で、《ポール》をゆびさす。
「 ―― いや、犬といっしょじゃないときもあったさ。 ―― ないって。 ありえねえんだよ。ひとりで、あの場所で『さがしてる』だって? ・・・・ありえないって」




