欲する女
「 まあいいさ。そうかもしれねえな。 ―― おれが、あの赤い髪の女に追っかけられたときの『姿』は、おれが最近まで世話になってた女の《理想の男》ってやつなんだ。 『 長めの金髪。ハンサムで金持ち。上流階級っぽくて読書家。だから仕事は書評や紹介文を雑誌に寄稿するぐらいで生活していける。人とのつきあいが苦手で、いままで恋人ナシ。家族だけと仲良くすごしてきたような世間知らず。自分にだけは誠実で控えめに接してくれる 』なんていう、《理想の男》をずっと念じながら彼女はいつもカフェにいるんだ。 ・・・まあ、あそこまで《欲してる》女はめったにいないけどな」
すぐに《理想の男》の姿になって出会ってやったさ、と説明するコウモリを警備官たちがにらみつけ、腕を組んだクラークが聞く。
「その女性の名前は、ジュディ・レビンか?」
「ご名答」
「 ―― それって、さっきの資料にあった・・」
おもわずという声をだしてしまった防犯部の若い男が、あわてて自分の口をふさぐが、《コウモリ》と目があってしまった。
おびえる視線を返されて、《ポール》は力なく笑う。
「 おれは、人間に危害をくわえるようなことはしねえよ。 《力》もないし、人間のことが好きなんだ」
「言いかえてやろうか? 寄生する人間がいないと、暮らしていけないんだろ?」
穏やかな声でルイが《コウモリ》の生態をあらわした。




