いまのところは
標準が自分に定められてるのに気づいた《男》が、「おれの身は保証されてるんだぜ?」と人間たちをみまわしてさけぶ。
「 まあ、あわてるな。彼女にお前を傷つける意思はないよ。 ―― いまのところ」
ルイののんびりとした言葉に、サリーナがわらうように「いまのところ、な」と同意する。
「なんで、サリーナがこんなに怒ってるのかは、なんとなく理由はわかるな。なぜなら、―― おまえは、ここでまた《人間》に戻った時、下の拘置所にいたときとは、《違う》人間の男 になってるからだ」
ルイの楽し気な指摘に、銃をかまえた女がうなずく。
ジョーの声に飛び起きたとき、コウモリの姿は拘置所の鉄格子にもたれていた男とは別人になっていた。
コウモリの一番近くでその容姿をながめるウィルが、ひどく嫌そうな顔できいた。
「それって誰なんだよ? それとも、実際には存在しない人間の姿になってるのか?その、長めの金髪に三十代くらいの男っていうのが、いつもの変身の基準なのか?」
「そんな変な基準じゃねえよ。 女にだってなるし。 ―― おれたち《コウモリ》は、そんときの場所で 『いちばん強く欲されてるヤツ』 の姿になれるんだ」
「はあ?意味がわからん」