灰マニア令嬢の結婚
公爵令嬢のシャーロットは、灰マニアだった。数年前、王都で「灰かぶり令嬢」というロマンス小説が人気だったが、シャーロットは、灰マニアだった。
偶然にも「灰かぶり令嬢」のヒロインとシャーロット令嬢の境遇は、少し被るところがあった。「灰かぶり令嬢」にヒロイン・クララは、母親を亡くし、義母や血の繋がらない妹や姉にいじめられている設定だったが、シャーロットも全く同じ境遇だった。女中部屋に押し込まれ、灰の掃除などをやらされていた。
しかし、そんな物語のヒロインとはだいぶ違うところがあった。
毎日毎日見る大量の灰。これを何かに活用できないか図書館に行き調べ始めた。最初は洗剤や植物の肥料として利用していたが、石鹸や洗剤にできる事を知り、日々研究を重ね、ついに美容液効果抜群の石鹸を完成させた。石鹸専門店も作り商売も初めていた。開発者のシャーロットの肌も雪のように美肌になり、この国の王子が主催する舞踏会にも招待状が届いた。
義母や妹や姉にやっかまれて大変だったが、仕立て屋にオリジナルの特製石鹸を賄賂としてあげると、綺麗なドレスをくれた。王子様は婚活目当てでパーティーを開いたようだが、シャーロットは商談に行くつもりだった。この石鹸を売り込み、王族の御用達という箔がつくと嬉しい。また、にがりや天然塩といった天然美容成分も入手したいので、何とか他の王族ともコネを作りたかった。
「とういう事で王子様、我が灰マニア石鹸は如何でしょうか?」
舞踏会で王子様と一緒に踊る番になった時、シャーロットはここぞとばかりに商業トークを繰り広げた。そばで見る王子様は、ニキビだらけだった。きっと良いもの食っているんだうと舌打ちしたくなるが、これは売り込むチャンスかもしれない。
「こんな話する令嬢は初めてだよ……。ところで君は、お母様や妹や姉にいじめられてないのかい? そんな噂を聞くよ」
優雅にステップを踏みながも、王子様はドン引きしているようだった。
「あまりにも私が灰の研究に没頭してるので、もうあの人達は呆れてます」
「だろうね……」
「ところで、天然塩やにがりが入手出来るルートはご存知?」
そうは言っても自然派コスメについて、王子様と盛り上がり、後日シャーロットが開いた店の来てくれる事になった。
「うわ、本当に石鹸ばっかりだな……」
シャーロットは王都の町の一角に石鹸専門店を開いた。最初は義母など身内の嫌がらせばかりだったが、評判が広まると、黙ってしまった。店の壁一面には灰で作った各種石鹸が詰め込まれ、良い匂いがする。花の清潔感のある臭いが漂っていた。シャーロットは地味なエプロン姿で店を切り盛りし、一見公爵令嬢には全く見えなかった。
「王子様、石鹸で足を洗ってみませんか? うちはお試しで、私が足を洗ってるんです。これが気持ちいいって好評で」
「うーん、シャーロット嬢、君は本当に変わってるね……」
王子は呆れながらも、この妙ちきりんな令嬢が気になって仕方なかった。
「灰かぶり令嬢」は、魔法やガラスの靴が出て来る愛らしい物語だが、シャーロットは「面白い女枠」として王子様に気に入られ、最終的には結婚した。
ちなみにこの石鹸は工場で大量に作られるようにもなり、国民の雇用にも大きく貢献した。特にシャーロットは孤児や実家でいじめられている女性を積極的に雇い、「むしろシャーロット様が王子様じゃね?」と言われる始末だったが、側にこんな面白い女がいる王子様は、毎日が楽しかった。
めでたし、めでたし。