面白い女
その女とは合コンで出会った。
自分で言うのは難だが、オレは女に不自由していない。その合コンも友達も行くからという軽いノリで行ったわけだ。
男四人、女四人の合コンだったが、一人だけ芋草い女が混じっていた。
「淡雲直恵です……」
明らかに引き立て役だ。
おそらくユニクロかGUで買ったペラペラのシャツに、中途半端の丈のスカート。スカートを履いてくるだけマシだが、化粧っけはなく、髪の毛も真っ黒。黒縁のメガネもかけていた。
他の女性陣は、今すぐキャバクラの面接行っても通りそうだが、なぜここの芋が?
磨けば光るかもしれないが、どう見ても芋。まあ、ジャガイモというよりはサツマイモ系女子といった感じか。
オレは一応紳士だ。サツマイモ系女子にも声をかけた。
モテる男女は、陰キャや芋系女子にも優しいものだ。そうする事でポイントアップするからだ。ちなみに陰気キャや芋系女子同士でそれをやっても意味がない。
あくまでも陽キャがそうするから、人格者に見えるというものだ。
「やだぁ、時任くん。淡雲さんに話しかけないでよ。淡雲さんは、神学生で清い人なのよ」
女子達は白白しく、そんな事を言っていた。
「は? 神学生って何?」
「文字通りよ。牧師になる為に勉強してるの」
直恵はそう言い、ぐるりと店内を見合わした。
「って事は、クリスチャンなわけ?」
「何か、問題?」
芋系に見えた直恵は、意外とクールに言い放った。
映画でクリスチャンは見た事がある。確か婚前交渉禁止とか言っていたような……。それを思うと、女に不自由した事はないオレは身震いしてしまった。
本当に何でこんなサツマイモ系女子がここのいるんだ???
頭の中が混乱してきたところ、直恵は気分が悪いと言って帰っていった。
「本当、淡雲さんって清いんだからぁ」
女子達の褒めてるようで、貶している言葉に、なぜかオレは吐きそうになってきた。
気づくと合コン会場を後にし、直恵の後を追っていた。
シンデレラを追いかける王子様?
シンデレラっていうか、サツマイモ系女子だけどな。
失礼極まりない事を考えながら、直恵を追うと、近くにある公園に入っていった。
缶コーヒーを買い、ベンチに座ると、少々おっさん臭くしれを一気飲みしていた。
「よ、淡雲さん。なのやってるの?」
「あぁ、あなたね。あんまり近寄らないでくれる?」
オレにとっては思って見ない反応だった。
こんな芋系女子に邪険にされた???
頭が混乱し、なぜか直恵の興味を持ってしまった。根掘り葉掘り質問してしまった。直恵は、ウンザリしながらも一つ一つ答えていく。
「え、直恵ちゃんって霊がみえるの?」
クリスチャンの話になり、聖書には「霊」についても詳しく描写されているという話題になった時、直恵はそんな事を言った。
「あなた、相当ヤリチンね。性不品行の悪霊がどわっと憑いてるわ。そうねぇ。今まで女と寝た回数は、40回ぐらいかしら?」
芋臭い上、スピリチュアル系女子wwwと思っていたが、その数字は生々しい。
オレの表情は、かなり曇っていたと思う。
「でも中学生ぐらいの時はモテなかったでしょ。童貞捨てた相手が、欲求不満な人妻はヤバいでしょ」
それも全く本当の事で、オレの表情は凍りついていたはずだ。
直恵はさらに怖い事を言ってきた。
聖書によると神様は、夫婦の関係しか祝福していない。婚前交渉は、相手が持つ呪い、不幸などとも一体になり、悪霊パワーも100倍ぐらいになるという。
「ちょ、ちょ。怖いよ」
「そんな怖がらないで。聖書にも娼婦が出てくるけれど、神様はお許しになってるわ」
「斜め上の励ましはいいからっ!」
そういえば童貞を捨てた時ぐらいから親父が病気になったり、第一志望の大学に落ちたり、プチ不幸が続いていた。それも関係ある???
「あら、お父様も病気? 腰の病気になってたりしてない?」
「ひー、当たってる!何でわかるんだ!」
直恵によると、ヤリチン男は将来、腰の病気になる事が多いらしい。オレの親父もけっこうイケメンで食い散らかしていた。お袋は愛想をつかし、現在地別居中だった。
「ちょ、どうしよ〜」
「仕方ないわね。好きでヤリチンやってたんだから、自業自得ってやつね〜」
直恵はそう言って帰ろうとするので、連絡先だけ聞いた。
その日以来、オレは直恵と時々連絡を取り合うようになった。
いや、面白いい女だよ。
オレがメールで甘い言葉を書いて送っても全くスルーしてくる。
それどころか、「悔い改めろ」とか聖書の言葉を引用したメールを送ってきたりする。
芋は芋でも、紫芋だったのか?
どうもこの変わり種の芋娘が、気になって仕方なかった。