創世のうた
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歌の女神によって作られた、うたによって作られた美しい世界。
前半にはその世界の創世を語る叙事詩を、後半には女神によって口ずさまれたとされるうたの歌詞を載せております。
この作品は仙道アリマサ様の企画【仙道企画その1】参加作品です。
是非、仙道様の曲に合わせて口ずさんで頂ければ幸いです。
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ようやく一人前になった歌の女神に、初めての『世界』が与えられた。
まだ灰色だけで塗り潰された世界はとても味気ない。透明な宝玉に収められた小さな世界を、彼女が神の力で美しい新たな世界に変えるのだ。
彼女は迷った。自分には歌しか無い。与えられる絶大な力も、生み出す為の繊細な器用さも、奇想天外なアイデアも、何も持ち合わせてはいなかった。彼女は虹色の瞳を閉じ、愛おしげに宝玉を胸に抱いた。
暖かな波動を感じた。灰色一色に見えるこの世界も、内には大きな希望と可能性を秘めている。自分はただそれを引き出すだけで良いのだ、彼女はそう気付いた。
彼女はゆっくりと、まろやかなその唇を開く。たおやかな喉を震わせる。心を込めて、かざした宝玉に向けて歌をうたう。
音が、言葉が、溢れてゆく。灰色の世界を色鮮やかに塗り替えてゆく。光が舞い、風が踊り、水が湧き、緑が茂り、そして空は青く青く染められてゆく。
女神はただ歌う。世界をその愛で包む。祈るように口ずさみ続ける。
その世界が、佳きものであり続けるように──。
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しらべは滴のように
輝くつぶてのように
月の色映し透き通る涙のように
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言葉は風のように
ほどける雲のように
揺れるみなも 寄せては返すわだつみのように
・
しらべと言葉は
混じり合い うたとなる
澄み渡り 色付いてゆく
世界はいま鮮やかに 命を宿す
・
口ずさむ響きと
紡がれる思いと
希望運ぶ暁の光が全てを照らす
・
満ち満ちるしらべ その音色を
どうかどうか忘れずに ああ
愛しい世界よ どうか永遠に……
*
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最初に曲を聴いた時に、イントロで光の粒がポロポロとはじけ、次いで多くの楽器が入って来るところでぐわっと目の前が開けるような、一気に鮮やかな色彩が広がっていくような、そんな光景を見ました。
そう、まるでぽろぽろと零れた音のしずくから、様々なものが産まれ溢れ、世界が作られていくかのように感じたのです。
そこで自分は夢想しました。これは歌によって作られた世界、そういう創世の神話なのだと。女神のうたが生み出した、とても鮮やかで美しく、愛された世界なのだと。
想像するうちにメロディにはらりはらりと言葉が落ちて、僭越ながらその言葉達を使って歌詞の体裁に整えさせて頂きました。
美しき、佳き世界の片鱗を、感じて頂ければ幸いです。
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