ゆらいでいるそれ
「どうした? そんなに考え込んで」
「いや、これなんだけどな」
ナオはトオルに一枚の絵を見せた。
「なんだ、この欠けた皿みたいな絵は」
「これは、温泉マークの下の部分だ」
「ああ、言われてみれば。それで、上のにょろにょろの部分は?」
「無い。というか、それを考えている」
「はい?」
トオルはよく分からないと言うように首を傾げた。
「なんかな、いとこがお店を始めるらしいんだが」
「ふんふん」
「そのロゴみたいなものが欲しいんだと」
「それは欲しいかもな。しかし、なぜ温泉マークを使うんだ?」
「いとこは温泉が好きなんだ」
「なるほど」
「よく納得できるな」
ナオはトオルの態度にあきれながら話を続けた。
「それで、いとこのお店は何をするんだ」
「料理を出すらしい」
「ほほう」
「採用されたら、1年間ご飯をおごってもらえる」
「よし、俺も協力しよう」
「食い意地、頼もしい」
トオルは、ふふんと鼻を鳴らした。
「それで、いくつか考えたんだ」
「見せてくれ」
「まず思いついたのは、これだ」
ナオが見せた絵には、にょろにょろの部分に緑の模様が描かれていた。
「この緑は……」
「ワカメだ」
「ワカメ……」
「ほら、だって、海の中でゆらゆらしてるだろ」
「ああ、そういうことか」
トオルは右上を見ながら、あごに手を当てて考えた。
「うーん。だけど、ワカメには、あまりにょろにょろ感を感じないな」
「確かに。ちなみに、似たようなものでゼンマイもあるぞ」
「渋すぎる選択じゃないか。俺は嫌いじゃないぞ」
「お前は変わっているな」
「ははは、よく言われるよ」
高らかに笑うトオルを置いといて、ナオは次の絵を見せた。
「そして、次はこれだ」
「白い細い棒か……」
「これは、チンアナゴ」
「この連想ゲーム、楽しいな」
「そんなつもりはないんだけどな」
「いいんじゃないか? チンアナゴ」
「だがな、チンアナゴって『にょろ』より『にょき』に近くないか?」
「ほほう」
「だから違うかなと」
「お前がそう思うならしょうがないな」
「それで、クラゲも候補に挙げたんだ」
ナオは、違う絵をトオルに見せた。
「ゆらゆらしていて、足はにょろにょろしてるな!」
「しかしだ」
「それにも納得できないと」
「クラゲって食べないよな」
「それは、チンアナゴのところで思いつきなさいな」
ここで、トオルはあることに気が付いた。
「しかし、さっきからゼンマイ以外は海の生き物ばっかりだな」
「そりゃあ、いとこの店は海鮮系だからな」
「それ、初耳」
「ああ、そうだったか」
「じゃあ、海限定というわけじゃないんだな」
「何かいいアイデアが浮かんだのか?」
「ああ!」
トオルはナオから紙とペンを貸してもらい、一気にアイデアを書きなぐった。
ある日曜日。二人はいとこのお店の入り口前で立っていた。
「おお、本当にのれんになってる!」
「さあ、おいしいご飯をたべよう」
二人がくぐったのれんには、欠けた皿のような形の上で、ウナギが三匹、にょろにょろと上に泳いでいる様子が描かれていた。
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