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23 庭での一日

 朝から快晴、暑すぎず寒すぎずいつになく青く澄んだ空の下。


 タンジェントは、残りの茎を植える準備をしていた。先の尖った小さな穴掘り棒、水がはいったちいさな樽、根や葉が生えたペリルの茎を畑のそばに用意した。


 ドレイファスたちが来たら、早速植えてしまおう。土に手をやり鑑定すると状態もよさそうだ。

 冷やしたレッドティーを飲み、顔触れが揃うまで水やり樽のことを考える。


─樽に棒をさす理由がわからないんだよな─


 樽に差し込まれた棒、その棒の先に何かをつけると雨のように水が撒けるというが。

この棒の役割がよくわからない。


 そうだ、樽に小さなザルをつけてみようと思っていたんだ!

バンブー草か木の皮で編んだ小さなザルがどこかに転がっていたはず。

厨房でザルを振っていたときに飛ばされていた水滴が、ちょうどよさそうだと。忘れていた!


 ザルは道具入れの中に放り込まれていた。きっちり編み込まれているわけではないが、多少でもパラパラさせられれば。物は試しだ。


 タンジェントは前に失敗して、棒を差し込んだまま放置していた樽を取り出し、まず棒の先にザルをつけてみた。

 少し水を入れ樽を傾げてみるが、そもそも棒がなんの役目も果たしていないため、ザバッと水が流れる。ちょうど水の落下する先にザルがあり、その目を通ったおかげで多少水の落ち方がバラついただけ。


─うーん?水滴はパラパラにはならない。なぜだ?─


 タンジェントが厨房で見かけたのは、ザルの最後の水切りで強く振ったから水滴がパラついただけなのだ。

ポタポタと水滴を落とす樽につけられたザルを見つめながら、うまく行かない理由をぼんやり考えていた。


 背後から笑い声が聞こえて、振り返るとルジーに背負われたドレイファスが手を振っていた。言ったとおり、グレイザールを撒いてきたようだ。


「来たか」


─水やりはまた考えればいいか─


 タンジェントが頭を切り替えたとき、用意された株を覗いてドレイファスが歓声をあげた。


「タンジー、早く植えよう!」


 ペリル畑の中に、タンジェントが開けた小さな穴が並ぶ。

 ドレイファスはさっさと畑に足を踏み入れ、鉢から土ごと株を引き抜くと穴におさめてまわりの土を寄せる。

 空の鉢を戻し、新しい鉢を持って次の穴へ。何も言われなくても、ひとりでどんどんとペリルを移植していく見事な手捌きは公爵家嫡男とは思えない。


 すべての鉢を空にすると、今度は樽に入れた水を小さな器に汲んで一本づつかけて回る。


「終わった!」


 ドレイファスが満面の笑みを浮かべて大人たちを見上げ、眺めていただけのルジーが頭を撫でてやっている。うれしそうにぴょんぴょん跳ねる姿で、今の気持ちを体中で表現していた。


 それを横目で見ながら、タンジェントはたった今植えられたばかりのペリルを満足気に見やる。

 少し前に株で植えたペリルは数本枯れたが、通常の花の移植に比べてはるかに高い確率で定着させることができた。それは土の適性がかなり高かったことがあるだろう。

茎に根を生やしたものについても、前回と今日植えたものの様子をしばらく見る必要はあるが、その植物が生えていた土に近づければ、定着の可能性がより高まることは間違いなさそうだ。


 タンジェントは、毎晩ペリルの土の状態と天気、成長具合を自分の日記に書き添えている。

ペリルは毎年同じところに生えるので、うまくやれれば来年この一面は、自分たちが作り上げた畑第一号になるはず。


「タンジー、お花さんのひげひげやろう」

「あ、そうだったな!やろう」


 グレイザールがいない間に、だ。

朝のうちに、今朝咲き始めた花にリボンをつけてある。森で比較的大きめの実をつけていた株の花々。これを擦り付けると一体何が起こるのか。

とりあえず、近い距離に植えられた株の花同士を、真ん中が触れるようスリスリしてみた。

初めてのことで加減がわからないが、擦った先の花に黄色い花の粉がつくくらいまではやってみた。目印にするため、リボンは外さずにこれからも様子を見なければ。


「タンジー、ペリルは元気?」


 太陽の陽射しが、ドレイファスの金髪を燦めかせて眩しいほどだ。タンジェントは目を細めて畑の縁にしゃがみ、ペリルに手を触れる。


「うん、元気に成長中だ」


 鑑定ボードを見て答えると、いつものようにとびきりうれしそうに、よかった!タンジーありがとう!と叫んだ。



 昼前に、ペリルについて今日やる予定だったことを終え、ドレイファスはまたルジーに抱えられて戻っていった。


 タンジェントも厨房にランチをもらいに屋敷へ向かうと、若い見習いが用意をしてくれる。

「タンジー!」

声をかけてきたのはロイダルだ。

「よかった!あとで庭に行こうと思っていたんだが、今話してもいいか?」


トレーにランチをのせている。


「小屋に持ち込んで食べてるんだが、一緒にくるか?」

「へえ、いつもと雰囲気変わっていいかも」


 二人、それぞれにトレーを持ち、裏庭の作業小屋へ向かう。

窓や扉を開け放つと風が抜け、テーブルから庭園が見渡せて微かに花の香りが漂う


「はー。なんか気持ちいいなー。小屋は狭いのに食堂じゃ味わえない開放感がある!いつもよりうまく感じるぞ」


ロイダルは小屋でのランチをかなり気に入ったらしい。


「ところで話とは?」

「うん。いくつかあってな。

まず庭師を雇う話。ドリアン様からお前の意向も聞けと言われている」

「そんな。ドリアン様がいいと言えば誰でも」


 眉をあげたロイダルが立てた人差し指を左右に振る。


「いや、それじゃダメなんだよ。

畑を作るってかなり非常識なことだろ?

経験があっても頭ガチガチで、タンジーにいろいろ指図とか邪魔してくるようなヤツではお前の邪魔になりかねない」


 そこまで考えてくれているとは思わなかったのでタンジェントは驚き、落ち着きなく瞼をパチパチした。


「タンジーとしては、お前の経験の足りないところが補える年長者がいいと思うか?それとも同程度か若い助手的な者がいいと思うか。

あとな、ドリアン様はここの他に屋敷を建てることを決められたので、そちらにも庭師が必要になるんだが、つまらん優劣争いなどは本意ではないのでお前の考えを聞きたいんだ」


「難しいな、それ。

正直、別宅の庭師は俺とは関係ないと思うが、ここの庭師は革新的な考えの方がありがたいかも」


「何人かピックアップするからお前が面談しろ。但し庭は見せずにな。あ、ドリアン様は新しい屋敷の庭師もお前に面談してもらうつもりらしいぞ」


 え!それ責任重くない?と思ったが、庭師の良し悪しなんか俺たちじゃわからんと言われたら、タンジェントはそれ以上何も言えなかった。


「それから大工だけど、大物小物の得手不得手はもちろん、おまえとの相性も大事ってことで。大工もタンジーにってことだ。いつでも連れてこられるから、おまえの都合を教えてくれ。

あ、連れてきたけどイマイチって文句は勘弁な。俺、評判とかは調べられるけど、さっきも言ったとおり職人のホントの良し悪しはわからんからね」


 話し終えるとロイダルは、腰に下げていたバンブー草の水筒から水を飲んだ。

タンジェントは、その水筒を見るのは初めてだ。

「あれ?皮袋じゃないんだな?」

「ああ、バンブー草の中をくり抜くと水筒にできるんだよ。皮袋のほうがたくさん入るけど、フニャフニャするだろ?俺、あれがどうにも気持ち悪くてなー」



─バンブー草はもちろん知っているが。

細く割いて籠やザルを編む物と思っていた。

中をくり抜く?筒として使う?

確かに持ち運びに便利そうだ。今度から山に行くときはこれを持って行こう!

明日にでもバンブー草の採取に行くか─


「それより面談はどうする?」


「うん、ひとを見る目はあまり自信ないから、マトレイドに立ち会ってもらうかな。相談してから連絡するよ」


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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