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16 畑をつくろう

 公爵家の客もここまでは来ない、庭園の外れにタンジェントの作業小屋はある。

 ゴーナ王国は土魔法を駆使した石造りの建物が多いのだが、この作業小屋は森を手入れしたときに出る太めの間伐材を使って丸太を組んだ簡素な造りになっている。

 道具や採取した植物を保管する倉庫と、タンジェントが体の汚れを落とす簡易シャワー、仮眠や食事ができるスペースがあるため、今では実家の男爵家に帰るよりここで寝起きすることの方が多くなった。


 備え付けの、広いとは言えないがベッドもあり、タンジェントはお気に入りの布団と枕を持ち込んで、月明かりの入る窓を見上げながらひとりでノンビリ寝るのが気に入っている。

 兄夫婦と元気いっぱいのこどもたちに占拠された実家より・・・(というか既に自分のほうが居候なのだけど)この空間が最高の贅沢なのだ。

よく眠れた翌朝は気力体力とも満ち溢れ、いつもの三倍は働けそうな気がする。(気のせいだが)

 

 朝、厨房から貰ってきたスープに固いブレッドをちぎって入れ、ふやかして食べる。屋敷の食堂で食べれば皿を洗わなくて済むが、ほんのり花の香りが漂う小屋で食べるのが好きだった。

 食器を洗い、水切りかごに皿を被せると、作業着を羽織って畑へ向かう。


「まずは土をやわらかく解したほうが良さそうだな」


 土魔法の呪文を唱えながら魔力を流すと、地面の浅いところを土竜が走りまわっているかのごとく、ボコボコと見えない手が土を耕していく。


 しばらく待ち、解れた土を握って鑑定ボードを開いてみる。


【フォンブランデイル家の庭の土】


「状態」

普通

[成分]

黒土

赤玉土

粘土

野薔薇の枯れて乾いた葉

野薔薇の枯れて乾いた花びら

野薔薇の枯れて乾いた根

菫の枯れて乾いた葉

菫の枯れて乾いた花びら

菫の枯れて乾いた根

ノースポートフラワーの枯れて乾いた葉

貝殻虫の死骸

発酵した馬の糞



 やっぱりかなり違うものだな

確か、森の土は粘土はなかったが、粘土だけ畑から取り除くなんてできないから、他の部分を近付けるか?

 発酵した葉っぱは、何かの役に立つんだろうか?というか、枯れ葉が発酵するものなのか?

でもせっかくだから、なるべく同じにしたい。


「よし、落ちて乾いたブナやナラの葉っぱを採ってきて土に・・・のせればいいのかな?」


 独りごちると、とりあえず森から枯れ葉を大量に持ち帰るつもりで、厩舎で荷車と馬を借りてきた。


 パッカパッカと蹄の音を聞きながら、森の入口に荷車を止め、馬を外して休ませてやる。と言っても、今日は敷地内をちょっと歩いただけ。

 帰りも葉っぱを乗せるだけだから物足りないかもしれんがのんびりしててくれ、と馬の首をポンポンと軽く撫でてやった。


「さあ、やるぞ」


 森の入口付近からブナやナラが何本もあるので、葉っぱは取り放題だ。発酵しているかはわからんけど。

 しゃがむと両手を開いて、葉っぱを掴み籠に放り込む。籠がいっぱいになったら荷車に持っていき、新しい籠を手にまた戻る。

空の籠が無くなるまで何往復したか。

いつしか荷車は葉っぱが詰まった籠でいっぱいになった。籠に手を突っ込み鑑定ボードを開くと


【ロプロの森の落ち葉】

[状態]

良い

[成分]

ナラの乾いた落ち葉

ナラの腐った落ち葉

ブナの乾いた落ち葉

ブナの腐った落ち葉

カエデの乾いた落ち葉

カエデの腐った落ち葉

ドングリの欠片

貝殻虫の死骸



「これでいい、持って帰ろう」


 また荷車に馬を繋ぎ、屋敷へ戻る。かごを全部下ろして上着だけ着替えてから厩舎へ馬と荷車を返すと、作業の前に厨房へ寄った。


「ボンディ、朝の食器はまだ小屋なんだが、昼飯を貰えるかな?」


「ああ、もちろん。食器はあとでまとめてでいいよ。待ってろ持ってくるから、たまにはここで食べていけよ」


 トレーにブレッドとスープ、肉と野菜の煮物をのせてきてくれた。


 しばらくして、食べ終わるのを見計らったように、干しペリルを紙に包んで持ってきてくれる。

「小腹空いたら食えや」

ボンディの気遣いに礼を言って、庭に戻る。


 冷静に見ると、自分で驚くくらいの落ち葉の量だ。それを一度耕した畑にまぶしていく。こんもりと葉っぱの小山ができた頃。


「ふははは、なーんだこりゃぁ」


 ルジーの声がした。

振り返るとルジーとドレイファスが手を繋いで立っていた。


「すごい!葉っぱ」


 ドレイファスが葉っぱの山に飛び込んで、カサカサと踏みまくっている。

 葉の中には多少水分や泥もついているものがあるので、止めるのも間に合わず、足が泥や葉くずだらけだ。


「ああっ、やべぇ!そんなに汚したらメイベル嬢に怒られんぞぉ」

と言いながらルジーは笑い転げている。

 ドレイファスは、自分の足元を見てうっわあ!と叫び声をあげたが、ケラケラと笑い始めた。

「そんな笑い方してたら、ボッチャマオギョウギワルイデツヨー!って怒られんぞぉ」

 ルジーがメイベルの口真似でいつもの小言を言ったものだから、二人の笑いは止まる気配がない。


「あのさ。楽しいのはわかったからそろそろいいかな」


 しかたなくタンジェントが止めに入った。

ハッとしたように動きが止まり、ドレイファスがごめんなさいと小さく頭を下げる。


「いや、怒ってないから大丈夫。土に葉を乗せてからどうしようかなーと思ってたんだけど、細かくしてから土に混ぜたほうがいいかなって。踏まれて細かくなった葉っぱを見て思いついたよ。ということで、もっとやろうぜっ!」


 ドレイファスが「やったー!」と叫んで、枯れ葉の上でピョンピョン飛び跳ねる。よほど面白いらしく狂喜乱舞の体だ。


「うはは、すげえな、あのはしゃぎっぷり。ドレイファス様も普段はいい子ちゃんなんだけど、けっこう我慢してんのかもしれねえなぁ」


 乾いた葉っぱはどんどんと細かくなっていく。


「俺たちもやっちゃう?」

ルジーが大人とは思えないテンションで、枯れ葉に突っ込んで行く。しようがないなぁと零しながら、タンジェントも飛び込んで・・・


 三人の男たちの膝下が完全に土と葉くずまみれになった頃、枯れ葉は粉々に、そして枯れ葉の山はぺしゃんこになった。


「そろそろいいかな」


 タンジェントに言われて、漸く二人も動きを止める。

 ドレイファスは、ハァハァと息を荒くしているが頬を真っ赤に染めて楽しくてたまらないという表情だ。


「魔法で土に葉っぱを混ぜ込むから、その間おやつ食べて休憩しよう」


 ドレイファスがおやつー!と飛び跳ねた。


「なあ、ルジーが付いてからドレイファス様どんどん行儀悪くなってるんじゃないかぁ?」

「んなこたぁないよ!こどもはあれでいいんだ。それに小さくても、やるときゃビシッとやってるんだから、たいしたもんだぜ」

そうだな。軽く頷くと茶の準備に手をかける。

「じゃ、ドレイファス様は茶飲むのか?」

「ぼく、おみずちょうだい」

「だよな」


 カップに茶と水、そしてボンディにもらった干しペリルをトレーにのせ、ルジーに渡す。


「食べてて。魔法かけてくるから」



 さきほどの狂乱が嘘のように、静かになった畑に、土魔法で鋤込みをかけると。

 土の下から大量の土竜が現れたかのように、地面がボコボコ動き始めた。今度はボコボコが斜めに捩れるように、土の中をまぜこんでいるように動く。


(うん。いいな。このまましばらく動かせば、土もほぐれてやわらかくなるだろう)


 タンジェントが小屋で一休みするため戻ると、ドレイファスは固い干しペリルを前歯でガシガシ噛み、ルジーは落ち着いて、茶を啜っている。


「タンジー、畑はどうだ?」

「なかなかよさそうだ。あとで鑑定してみて、もう少し手を入れるか、移植してしまうか考えよう」


 ルジーが茶を入れたポットを手に取り、カップに注いで渡してくれた。

干しペリルもまだ残してある。


「固いな」


何がどうしたら乾いただけでこれほど固くなるんだ?というくらいだ。歯が折れないか心配になる。


「茶につけて、ふやかして食うのよコレは」


 ルジーに教えられ初めて知る食べ方だが、それはあまりやりたくない。というか好きな食べ方じゃない。

 ガリガリと前歯で削って食す。

二個食べて固さに負けた頃に茶も飲み終わり、たいした話もしないまま畑に様子を見に行った。



 畑ではまだ土魔法が発動中だ。

畑の端にしゃがみ、畑の土に手を触れる。

ふわっとして、ほんのり湿っているようだ。


【フォンブランデイル家の庭の土】

「状態」

まあまあ良い

[成分]

黒土

赤玉土

粘土

ナラの乾いた枯れ葉

ナラの腐った落ち葉

ブナの腐った枯れ葉

ブナの乾いた枯れ葉

ブナの腐った落ち葉

カエデの乾いた枯れ葉

カエデの腐った落ち葉

野薔薇の乾いた枯れた葉

野薔薇の腐った落ち葉

野薔薇の乾いた花びら

菫の乾いた枯れた葉

菫の腐った落ち葉

菫の乾いた花びら

ノースポートフラワーの乾いた枯れた葉

ドングリの欠片

貝殻虫の死骸

発酵した馬の糞



「なんだこの、まあまあ良い状態って?

ペリルを植えるのによい土かも鑑定したいもんだな」

タンジェントのひとりごとに応えるよう、ボウっと鑑定ボードが開く。


【フォンブランデイル家の庭の土】


[ペリルへの適性]

まあまあ良い



 タンジェントはガクッと膝をついた。

「ぅおっ!うそ、こんな使い方ができたのか?あー、知らなかった!今まで損した!俺はバカだ」

「タンジー、なあに泣いてるんだ?」

「泣いてないわ。己のスキルが全然わかってなかったことが、いままたわかってしまっただけ」


 ドレイファスとルジーは顔を見合せ、キョトンとした。

お読みいただき、ありがとうございます。

明日から仕事のため、一日一〜ニできればの更新です。

休日は少し多く更新するつもりです。

よろしくお願いします。

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