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再会

 その夜、ノベルは薄暗い通りを慎重に歩いていた。

 以前、バロックが姿を現した闇市場の近くだ。

 バグヌスたちの商売を暴くには、やはり現場でおさえるしかない。


「ふぅ……」


 ノベルは深呼吸し適当な隠れ場所を探す。できる限り、通り全体を見渡せる場所を。

 周囲に人影はなく、通りがかった細い裏道の奥からはカツンカツンと足音が響く。


「――ん?」


 ノベルは突如として足を止めた。

 バタバタと慌ただしい足音が聞こえてきたからだ。

 ゆっくり後ろを振り向くと、灰色のフードをかぶった怪しげな三人組がこちらへ走り寄って来ている。


「……なんだ?」


 強烈に嫌な予感のするノベル。

 自分には関係ないはずだと思ったが、どうも怖くなり、彼らから離れようときびすを返した。


「んなっ……」


 背後にも、怪しげな黒ずくめの不審者が二人。

 闇商人にも見えたが、どちらかというとアサシンといった印象だ。

 彼らはノベルの姿をとらえると、こちらをまっすぐ見据え、ゆっくり歩き出してくる。

 その手には鞘に収まった剣。

 ノベルは後ずさり、恐怖に裏返った声で叫ぶ。


「あ、あんたたちはなんなんだ!?」


「……あんたがノベルさんかい?」


「だ、誰だ!? ま、まさかっ……あんたたちバグヌスの――」


 ――チャキンッ。


 ノベルの言葉を遮って剣が抜かれる。

 白銀に輝く刃が夜闇を照らす。

 そして刺客たちは、前後から一斉に襲い掛かって来た。


「く、くそぉっ」


 うかつだった。

 ここはエデンではないのだ。闇商売に関わろうとすればどうなるか、もう少しよく考えるべきだった。

 ノベルは絶望に顔を引きつらせ、無念さに拳を握りしめる。


「――待ちなさい」


 そのとき、どこからともなく凛々しい女の声が響いた。


「誰だ!?」


 刺客たちが声の主のほうを振り向くと、灰色のローブを纏った一人の女が歩いていた。

 綺麗な姿勢で堂々とまっすぐ歩く彼女からは、ただならぬ覇気が放たれている。

 その顔を見たノベルは驚愕に目を見開いた。

 燃えるように美しく赤いポニーテールに、威風堂々として凛々しい眼差し。

 その女騎士の名は――


「――どうして……どうして君がここにっ……アリサっ!」


 ノベルが叫んだ瞬間、アリサの姿が消えた。

 否、地を蹴ったのだ。

 それを認識した刺客が対応しようと動き出したときにはもう遅い。

 甲高い金属音が響き、剣は宙を舞っていた。


 敵の目前に一瞬で移動していたアリサは、無造作に剣の柄でみぞおちを突き、左から迫って来た敵の一撃を紙一重でかわす。

 両手で振り下ろされた斧はその重量で地面を砕くが、アリサの蹴りで持ち主は軽々と吹き飛ぶ。


「このぉっ!」


 剣を振り上げ、右から迫って来た敵には、ローブを投げ捨て視界を奪う。

 彼が慌てて剣で払い、視界を取り戻したときには、既にもう一人が倒れていた。

 刺客が怒りに叫び力任せに斬りかかるも、アリサは剣で軽く弾いて、顔面を殴打し黙らせる。

 そして、あまりの速さと強さに怯え、足をすくませていた最後の刺客の眼前へ剣の切っ先を向けた。


「退きなさい。そして二度と、このお方に手を出さないことです。でないと、命の保証はできませんよ」


「……ちっ」


 重苦しい沈黙の後、刺客は舌打ちし、きびすを返した。

 倒れていた刺客たちも立ち上がり、ぞろぞろと逃げるように走り去って行く。


「凄い……」


「遅れて申し訳ありません。お怪我はありませんか?」


「僕は大丈夫だよ」


「ランダー様、よくぞご無事で。」


 ノベルの顔を見たアリサは目を潤ませ、彼の足元へひざまずく。


「アリサ、どうして君がここへ?」


「すべてお伝えします。ただ、ここにいると危険ですので、一旦場所を変えましょう」


 ひとまず、二人は公園へ移動した。


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