正義と悪
国民反乱の一報を受けたオーキとキグスは、玉座の間へ側近の騎士二人と共に下がり、大臣たちは会議室で固まって待機していた。
キグスも他の大臣たちも、いくら民が押し寄せて来ようとも騎士団に任せておけば、いずれ鎮圧できるとたかをくくっていた。
だがオーキだけは、深刻な事態になっていることを理解している。
「なぜだ……なぜこんなことになっている。俺は国民のために立ち上がったはずだ。それがなぜ、国民から剣を向けられているんだっ!?」
オーキは玉座に深く腰を落とし頭を抱えていた。
不正まみれの政治家たちと、無能な王を引きずりおろせと、民衆の声が聞こえてくるようだ。
彼の心は既に折れかけている。
そんなオーキへ、キグスは心配無用というように淡々と言った。
「王様、そう悩まれることはありません。これは何者かが仕組んだ策略なのですから。暴動を鎮圧した後で、早急に首謀者をあぶり出し公表しましょう。そうすれば問題なくこの件は解決します」
こんな状況だというのに、キグスはえらく落ち着いていた。
そんな姿は普段であれば頼もしい限りだが、今のオーキにはなんの気休めにもならない。
キグスの声かけには反応せず、オーキは額を押さえて深いため息を吐いた。
しばらくして、玉座の間へ伝令係の騎士が駆け込んで来た。
「……どうした?」
オーキは顔を上げ、暗い表情で問う。
「も、申し訳ありません! 反乱者たちの勢いが凄まじく、騎士団が押し負け、城内への侵入を許してしまいました!」
「バ、バカな!? 騎士団は素人相手になにをやっているか!?」
キグスは血相を変え怒鳴り散らす。
オーキはなにも言わず目を瞑った。
伝令係は屈辱に顔を歪めながらも、必死に状況を説明する。
「そ、それが……反乱者の中に一人、とてつもなく腕の立つ者がおりまして。それに加え、民たちはしっかりと装備を整えており、挙句の果てにはハンターギルドのハンターたちまでいる始末でございます」
「なんだと? その腕の立つ者とハンターは傭兵と言ったところか。装備も整っているとは、随分と用意周到だな。まさか、奴らの背後には巨大な資本家でもついているのか……」
キグスが眉間にしわを寄せ、ぶつぶつと苛ただしげに呟く。
騎士は遠慮がちに腰から一枚の紙を取り出し、棒状に巻かれたそれを広げると、キグスへ渡した。
「……なっ!?」
キグスは目を大きく見開き絶句すると、慌ててオーキの元へ駆け寄り、それを渡す。
「王様、これは奴の仕業です!」
オーキは怪訝そうに眉をしかめ、キグスから受け取ったそれを読み始める。
「――そうか、そういうことか。俺が悪で、お前が正義だってことか……ランダー」
それは町にばらまかれていた、ランダーの遺書だった。
オーキはもう一度目を瞑って頭上を仰ぐ。
その後、キグスたちが無言で見守る中、それを破り捨てた。
「ここはもうダメか……」
キグスは神妙な表情で小さく呟くと、なにも告げず玉座の間を出て行く。
オーキにはもう、それを止める気力も残っていなかった。
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