結末
それから数日後、マルベスはなにげなく中央区へ続く町の大通りを歩いていた。
周囲を見渡すと、以前よりも明らかに暗い雰囲気が漂っていた。
道行く人々の多くは、絶望に満ちた暗い表情で下を向いて歩き、貴族たちですらも高そうな衣服を両手に抱えて質屋に駆け込んでいる。また、家を失い裏道や公園などに住む人々も日増しに増えているようだ。
マルベスは顔をわずかに歪め、重苦しいため息を吐いた。
「……なぁ、教えてくれよノベル。ここまでして、お前のやりたかったことはいったい……」
新通貨レンゴクのバブル崩壊は、はからずも無数の犠牲者を出した。
遊び感覚で小遣いを投じていた者から、全財産、挙句の果てには借金をしてまでレンゴクを買う者までいた始末。
彼らは皆、「貧困から抜け出せる」、「辛い労働の日々から解放される」などといった夢を見ていたのだ。
その夢はスルーズ商会のバブル崩しによって一掃されることとなった。
それによって地獄を見たのは、おそらくノートスの人々だけではないだろう。
「……あれは……」
マルベスが顔を上げると、中央区のほうから一人の恰幅の良い初老の男と、二人の騎士が歩いて来ていた。
男のほうは、上質な紺のロングコートを羽織り、いかにもエリート政治家といった風貌だが、余裕のない表情で額に青筋を浮かべて歩いている。
ただならぬ様子が気になったマルベスは、彼らとすれ違った後、反転しその後を追った。
やがて辿り着いたのは金庫番だ。
それも中央区にある貴族や政治家御用達の金庫番ではなく、貧民街とも呼べる南のほうにある簡素な金庫番だ。
男たちに続いてマルベスも入ると、男はカウンターで厳かに言った。
「調べたいことがある」
「こ、これはキンレイ大臣! こんなところまでお越しくださるとは恐縮です。すぐにお調べしますので、なんなりとお申し付けください」
マルベスは内心でほくそ笑んだ。
なるほど、この男がノートスで魔人と取引していた政治家だったのかと。
財務大臣のキンレイなら魔人が目をつけるのも頷ける。
「ノベル・ゴルドーという男の口座がここに登録されているな?」
「も、申し訳ございません。ノベルさんでしたら、先日口座を解約しております」
「なにっ!?」
キンレイが鬼の形相で叫んだ。
獣人の店員は、委縮し顔を引きつらせる。
「どういうことだ!? 預金は!?」
「そ、それが先日来たときに、急に口座を解約したいと言い出しまして……預金もそのときに……ですが、元々預金も多くはありませんでした」
「ちっ、こざかしい。それなら、スルーズ投資商会で構わん。大罪人であるノベル・ゴルドーと繋がっていた商会だ。資産をすべて押収させてもらうぞ」
「えっ!? し、しかしスルーズ投資商会も、もう――」
キンレイの怒りの叫びを背に、マルベスは腹を抱えながら店を出るのだった。
「バカな奴だ。ノベルの野郎はもうここにはいないってのに」
ノベルはバブルが崩壊してすぐに動き出していた。各地で投資していた商会すべてほぼ同時に決済させたことで、魔人族に目をつけられることを予想していたのだ。
スルーズ商会は、投資先の各商会からレンゴクの全決済によって得た利益の一部を一斉に集め、すべての出資金を回収し投資を取り止めた。
しかしスルーズ商会の得た利益は元手の数百倍にも上る莫大な金額。
そんなものが一斉にノートスへ集まれば、間違いなく目立つ。
そこでノベルが考えたのが、所有券に立て替えての受け取りだ。そうすれば、大量の通貨を持ち運ばないでも手元に置くことができる。
それでも、とんでもない枚数がスルーズ商会の保管庫に積み重ねられたのは間違いないが。
そしてその資金を持ち、ノベルたちとスルーズ商会は拠点をドルガンの辺境へ移した。
出資を取り止めたことでマルベス商会とのオーナー契約もなくなり、マルベスたちは魔人族の報復を恐れずノートスに残った。
「ノベル、やっぱりお前は俺の見込んだ男だ。まさか、あの魔人族に一矢報いちまったんだからな」
マルベスは愉快そうに、大声で笑いながら歩き出すのだった。
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