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エデンの停滞

「――ですから、我がホロウ商会がそんな案件を受けることはありません」


 王国エデンにある、ホロウ商会屋敷の応接室。

 商会長リュウエンの元に一つの大きな商売案件が舞い込んでいた。

 応接用ソファに向かい合って座り、交渉している相手はエデンの大臣だ。


「もう少し賢明になったらどうだ? リュウエン殿」


「おっしゃっていることがよく分かりませんね」


「……後悔することになるぞ」


 大臣は不機嫌そうに眉をしかめ、ぞんざいに吐き捨てると去って行った。


「ふぅ……」


 リュウエンは額を押さえ、ため息を吐く。精神的な疲労は計り知れない。

 案件の内容は、国が新しく出した政策を素晴らしいものだと吹聴し、国中に宣伝拡散してほしいというものだった。

 普段なら引き受けるところだが、リュウエンにはその政策が到底良いものには思えなかった。もしそれで国民の不満が高まりでもすれば、嘘を吹聴したとしてホロウ商会の立場が危うくなる。


「後悔、か……」


 ランダーの出資金を全商会から強引に取り上げた国は、そのせいで破産寸前だという商会からの反発を受け、金庫番からの低金利融資を特別に許可した。

 しかし、ランダーへの恩義を強く感じているリュウエンは、政治家たちの息のかかった金庫番から融資を受けることを断固として拒否。

 そのせいで、一度はホロウ商会の経営が傾きかけた。以前に計画していた所有券取引所の買収も諦めざるをえなかったが、それでも必死にあがき続け、なんとか持ち直してきている。


 だが他の商会は、ランダーのことなど忘れ、融資を受けることで裏では国家の犬に成り下がってしまっていた。

 特に、大商会にまで成長していたところは、国との癒着によって様々な委託を優先的に受けられ、業績が悪化すると国がどうにか助けようとする。それによって、エデンでの商売の多くは政治家たちの手中に収まってしまっていた。


 国民には借金減税などという政策で、金庫番から個人的な融資を受けやすいようにして借金地獄に陥れて国に依存させ、馬車馬のように働かせることで国の税収を上げた。

 しかしそれは、一般労働者を増やしただけに過ぎず、新しい技術や商売は生まれない。


 そんな状況だというのに、大臣たちはあと一年ほどしたら政権が変わることから、次期政権に食い込むための人気取りに終始している。

 エデンの経済は、とうに停滞の時を迎えていた。


「ランダー王子、早く戻って来てください。でないとエデンは……」


 ランダーならこの状況を打開できると信じていた。

 リュウエンはただひたすら彼を待つ。

 たとえ、エデンの政治家たちから目のかたきにされようとも――


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