戦争と金融
「今回の取引は、ダークマターの高騰を確信したことによるものです。この報告書によれば、各国にダークマターを輸出しているドルガン連邦国の地域で疫病が流行り、思うようにダークマターの採掘が進んでいないようです」
「……なるほど、おっしゃりたいことは分かりました。確かにドルガンのダークマター在庫減少によって、ダークマターの価格は少し上がるかもしれません。しかし、最大輸出国の『ヴァルファーム』は健在です。豊富な在庫を持っているあの国なら、その程度カバーできるのではないでしょうか?」
「おっしゃる通りです。 確かに、エルフ族が統治する資源国の輸出があれば、ダークマターの供給量低下があっても大した問題にはなりません。僕はよく、所有券取引所の売買記録を見ていますが、ダークマターの価格は徐々に上昇し、上げ止まったような気配すらあります」
「ふむ、そうでしょうね。やはり、今から上がる可能性は低いのでは?」
「判断材料がそれだけなら、僕もそう思います。ただ、ドルガンのダークマター輸出先には、鬼人が統治する軍事国家『オリファン』もある」
「それがなにか?」
「今、ダークマターを押さえれば、他国に対して優位に立てる。もちろん、エルフは争いを好まないので、ダークマターの価格を不当につり上げたりはしないでしょう。ですが、それが別の国に渡ったら? それも、自国の利益しか考えないような、暴力的な鬼人の国に」
「まさか……オリファンが戦争をしかけ、ダークマターの鉱山を独占すると?」
ルインは自分でも言っていることが信じられないというように、頬を引きつらせている。
ノベルは口元に微かな笑みを浮かべ頷く。
「そう、そのときこそ、ダークマターショックが訪れるときです」
「まっ、待ってください! それはまだ憶測でしかないですよね? そんな恐ろしい展開を予想して大金をつぎ込むなんて……」
「それなりの判断材料はあるんです。実は先日、ミスリルの価格が少し上昇していました」
ミスリルは白銀に輝く高硬度の鉱石で、高級武具や装飾品などに使われる。基本的にミスリルの価値が上がるときは、連動して鉱石類全ての価格が上昇し、製造業にとって痛手になるのだ。
ダークマターやオリハルコンと同様に、所有券取引の人気商品でもある。
「は、はぁ」
「しかし相関性の高いオリハルコンは大して上がっておらず、最近の世界情勢にも特に変化はないようでした。それで気になって、その日の取引量を調べたんです。そしたら、ミスリルだけが普段の三倍の量を取引されていました」
「そ、そんなに!?」
「ええ。それはつまり、ミスリルを武具製造の目的で大量に購入した大資本がいるということ。それが今日得た情報で、ようやく繋がりました」
ルインはハッとして息を呑んだ。
ノベルには見えていたのだ。ミスリルを買い集め、戦いの準備を始めている者の存在が。
ようやくルインが納得すると、ノベルは今後の商売について軽く話し合った後、屋敷を出たのだった。
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