逆襲の足掛かり
その日、ノベルはアリサを連れ、とある地区の隅に屋敷を構える、弱小商会へと足を運んだ。
「――これはノベルさん、よくおいでくださいました」
ノベルたちが二階の執務室に入ると、なにかの書類にペンを走らせていた男が立ち上がり、慇懃に頭を下げる。
情報屋業を営む『スルーズ商会』の会長『ルイン・スルーズ』だ。
痩せ細った男で眼鏡をかけており、常に引きつったような笑みを顔に貼りつけ気が弱い。心労のためか、まだ四十代だというのに黒に混じる白髪が目立つ。
「こんにちは、ルイン会長」
ノベルは軽く頬を緩めて挨拶し、アリサも横で会釈する。
ルインに促され、横の応接ソファにノベルは座り、小さな机を挟んでルインと向かい合う。アリサは護衛としてノベルの後ろに立った。
「ノベルさんにおかれましては、こんな弱小商会に出資して頂いて、本当に感謝しております」
「いえいえ、ここなら必ず利益を伸ばせると確信していますので」
「あ、ありがたいお言葉です」
そう言ってルインは頬を引きつらせる。
しかしノベルは、この商会はきっと化ける、そう確信していた。
その根拠は、この商会が発行している情報紙にある。
少し焦点がズレているものの、国外の情報を集めることのできる人脈は貴重であり、凝縮されている情報量はかなりのものだ。
それで、ノベルは金庫番から受けた融資の全額をこのスルーズ商会に投資した。
まずは一極集中。
スルーズ商会は、かなりの経営危機に陥っているが、上手く立ち回れば復活できる可能性は残っている。
ノベルは大きなリスクを負ってでも、これを逆襲への足掛かりとするつもりだ。
「しかしご期待してくださるのは嬉しいのですが、負債の方がなかなか……」
ルインは言いずらそうに口ごもり、ノベルはため息を吐いた。
スルーズ商会がここまでの経営危機に陥っていた原因は、情報紙で公表した情報の一部がある貴族に不利益をもたらし、その逆恨みで攻撃されたのが始まりだという。
それで様々な方向から圧力をかけられ、取引先を失い、金庫番の融資も受けられなくなって、商会の仲間たちを泣く泣く解雇したのだとか。
結局のところ、この国の権力者による横暴だ。
「大丈夫です。そんなもの、大した枷にもなりません」
「は、はぁ、そうでしょうか?」
「もちろんです。ところで、最近はどんな情報が手に入ったんです?」
釈然としないルインだったが、ノベルの問いに表情を引き締めた。
すぐに立ち上がり、執務机の上から数枚の書簡を持ってくる。
それらには、国内外で得た情報が詳細に記されていた。
「これですべてです」
「凄い。かなりの情報量ですね」
「ええ。ノートスの貴族や政治家たちも、国外には圧力をかけられないですからね」
「それもそうですね」
ノベルは得心したように頷く。
彼は目を走らせ、書簡に書かれた内容を流し読みする。
そして最後まで読み、右側の頬をわずかにつり上げた。
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