見え隠れする陰謀
その後、駐屯所に運ばれた血酒はドルガンの血酒商が確認し、希少種の血が薄められた違法なものであると判明。
バグヌスとバロックは罪を認め、カルキスが関わっていたことをすぐに白状する。
しかし翌日、騎士たちがカルキス邸に押し入ると、カルキスは胸をナイフで貫かれ暗殺されていた。
「――釈然としない結果だな」
ノベルは、酒場の隅で騎士隊長からその後の報告を受けていた。
「そうですね。カルキスも所詮、トカゲの尻尾でしかなかったということですか……」
「ああ。バグヌスたちみたいな下っ端はなにも知らされていないらしい。俺たちも調査は続けているが、黒幕の尻尾がまったく掴めねぇ」
「残念ですけど仕方ないですね。僕の見立てが甘かった」
「すまないな。報奨金も全然もらえなくて」
当初の話では、犯罪者の摘発などの手柄を立てた民には、報奨金が支払われるということだった。
それも、血酒の密造と貴族の関与という大事件であれば額も弾むはずだと。
しかしもらえたのはほんのわずか。
ノベルはここに、なにかしらの思惑が絡んでいるのではないかと感じていた。
「残念ですけど、仕方ありません。そこで、報酬の代わりと言ってはなんですが――」
「ん?」
「あなたの信用、貸してくれませんか?」
――翌日、ノベルは騎士隊長の信用を担保に、嫌がる金庫番から無理やり融資金を引き出した。
大金とまでは言えなかったが、潰れかけている商会一つに投資するには十分だ。
ここからノベルの本当の戦いが始まる――
――――――――――
真夜中の豪邸。
ランタンも点けていない真っ暗な居室で、ノートスの財務大臣『キンレイ』と闇商人のように全身を黒装束で覆い隠した、謎の男が密談していた。
「無知蒙昧な正義感にも困ったものです」
「ふんっ、忌々しい。オークどもはどうなった?」
「『自害』しましたよ。カルキスの末路を聞いてね」
キンレイは二ヤリと愉悦に満ちた笑みを浮かべた。
自害したというのは嘘で、裏から手を回したであろうことは、想像に難くなかった。
男は興味なさそうに「そうか」と呟く。
「騎士たちには褒美でも渡したのか?」
「まさか。そんなもの、わしが握りつぶしましたとも。びた一文渡されなかった奴らの顔は傑作だったと、騎士団長も言っていました。自分の目で見てみたかったものです」
「くだらない。そいつらの待遇はそのままか?」
「いえ、それなりの手柄ということで、やむを得ず昇級させました。さぞ喜んだでしょうな。駒の分際で出世できるなんて夢見るバカな男たちですから」
「それは困るな」
「……はい? それはどういうです意味でしょうか?」
「その正義感がまた邪魔をしてこないよう、この国から追放すべきだろう」
「はぁ……おっしゃることは分かりますが、それなりの理由がないと、それは厳しいですな」
キンレイは苦笑し額の汗をぬぐう。
男は、抜き身のナイフのように鋭い眼差しをキンレイへ向けた。
「やりようはいくらでもある。手柄を立てたことを理由に、他国へ飛ばせばいいだろう」
「な、なるほど。栄転だとでも言って、ド田舎にでも飛ばしますか」
「バカか貴様は。そんなことしたら、怒りと憎しみを植え付けることになる。そんな手合いは、なにをしでかすか分からないぞ。しっかりと牙を抜け」
「そ、それでは、ドルガンの都市部あたりにしますか」
「それでいい」
「承知しました。なにはともあれ、先に不安要素があぶり出せて良かったです」
「まったくだ。例の件、決してしくじるなよ?」
念を押すように男が告げると、まるで霧のように音もなく闇夜に溶け込み去って行った。
「もちろんですよ、ファウスト殿」
一人になった真っ暗な部屋で、キンレイの邪悪な笑い声が響く。
ファウスト・サナトス。
このノートスの経済に一石を投じ得る、恐るべき魔人の名だ。
「ふはははははっ! サナトス家の力さえあれば、次の宰相の座は、このキンレイのものだ!」
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