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 馭者は一度だけ休憩をしてくれた。目的地まであと半分だと言って、小さな川がある草原に囲まれた道で休憩をして馬に水を飲ませた。半分といっても、出発してから5時間近く経っている。あと5時間は馬車に揺られなくてはいけないと思うと、ここで疲れていてはいけない。休憩をして少しは体力を回復させないといけない。

 もしかすると馭者は私のために休憩をはさんでくれたのかもしれない。よく小窓から私の様子を見ていたから、疲れていることに気がついたのかもしれない。正直声をかけようとは思っていた。でも、私の都合で馬車を止めてもいいのかと思うと声をかけることができないでいた。


「ありがとうございます。こんなところがあったんですね」

「まだヒュースト国だけれどね。もう少し行ったら国境がある。国境と言っても看板が立っているだけだけれどね。ここは建物もないから、風も気持ちいいし休憩には丁度いい」


 馭者の言う通り、時々吹く風は涼しくて気持ちが良かった。ヒュースト国内では、風が吹いても少し埃っぽかったから、気持ちいいと思う風は初めてかもしれなかった。

 休憩が終われば、また5時間程馬車に揺られなくてはいけない。馭者以外誰もいないので、私は馬車の中で景色を見ているしかない。持ち運ぶ荷物が多いと思っていたから、馭者以外には誰もいないのか、それともだれかがついてくると思っていたから誰もいないのか。

 ローズの方は、父様と母様がついて行っているはず。あの子はそれが当然だと思っているだろう。荷物も小さなトランクが1つで、来ているドレスも継ぎ接ぎだらけ。何かを言われるのは覚悟をしておかないといけないかもしれない。


「そろそろ出発しようと思うのですが、いかがなさいますか?」

「出発しましょう。遅くなってしまうといけませんから」


 休憩から30分程経ってそう声をかけられた。まだ明るいとはいえ、ゆっくりしていると太陽が沈んでしまう。気温も下がってしまうため、私も体調を崩しやすくなってしまう。疲れも取れたため、そう言って立ち上がると馭者は馬車の扉を開いてくれた。

 お礼を言って乗り込むと、「もう暫く揺れますが、あと半分の距離まで来ています。具合が悪くなりましたら気軽に声をかけてください」と言うと静かに扉を閉めた。

 体調を心配してくれる馭者にお礼を言う前に扉が閉められてしまったので、心の中でお礼を言うと体から力を抜いた。

 あと半分で馬車に揺られなくなる。けれど、目的地に着くということは私が嫁ぐ男性と会うということ。私はどんな男性の元に嫁ぐのかを聞いてはいない。嫁ぐことになったと聞いたのも、一昨日の夜。

 朝から家は騒がしく嫁ぐ準備をしていたから聞くこともできなかった。食事の時に聞いても良かったのだけれど、食事はいつもローズが喋っているから口を挟むことなんか出来なかった。

 10歳の誕生日に選んだ花。あれがどちらに嫁ぐのかを決めるものだったことを聞いたのは食事の時。ローズが両親に聞いたから教えてもらうことができた。

 勿論ローズが私の嫁ぎ先を気にすることもなく、自分の嫁ぎ場所と相手のことばかりを尋ねていた。だから、ローズの相手のことだけは知っている。

 ルイス国のライアン・イルベルツ国王。その人がローズの相手。ロースは相手が国王だと知ると、とても喜んだ。


「たとえ国王が年をとった老人だとしても、お金を好きに使えるんだもの」


 呆れるようなことを大声で言っていたけれど、ローズは知っていて当然のライアン国王のことを知らなかった。私達の持っている精霊石はルイス国でしか採ることのできないもの。輸出をするために管理している人物がライアン国王で、まだ20代。そんなことも知らないなんて驚きだった。

 何度も父様が話していたはずなのに、興味のないことはすぐに忘れてしまうローズらしい。それに、たとえ国王が老人であってもお金は好きに使うことはできない。お金は個人のものじゃないのだから。ローズが嫁いでルイス国は大丈夫なのだろうかと思わずにはいられなかった。


「ヴィオレットの相手はきっと不細工なデブ男かしら? お似合いよ」


 本当にそう思っているのだから、どうすることもできない。私とは違って、子供の頃から外で遊んだり両親と一緒にパーティーに参加したりしていたのだから常識はあるはずなのだ。それなのに、私以上に子供っぽい。

 わがままで、自分の思い通りにならないと怒ったりと、両親が直そうとしても直せなかった彼女の性格は、ルイス国でもやっていけるものなのか少し心配になる。

 もしかすると、そんな心配があったから両親はローズについて行ったのかもしれない。失礼なことをしたら、ローズは家に戻されるかもしれないと思ったのかもしれない。けれど、私が戻されないとは言い切れない。見た目からして戻されるに違いない。そう覚悟しておくのがいいだろう。


「それにしても、どうして私とローズが嫁ぐことになったんだろう?」


 花を選んで嫁ぎ先を決めたということは、8年前には決まっていたということ。けれど、ローズが嫁いだ先の相手は国王。本来なら国王の娘が嫁ぐのではないだろうか。


「でも、たしか国王には娘がいなかったはず」


 だから私とローズのどちらかに嫁がせることにした。そうだとしても、どうして私達だったのだろうか。他の国の国王の娘でも良かったのではないのだろうか。何か決まり事でもあるのだとしたら、それは分からないから仕方がないだろう。

 私が相手の元に着いたらその理由も分かるのだろうか。教えてもらえるのだとしたら知りたい。でも、会ってすぐ家に帰されたら。そうなったら両親に聞けばいい。

 嫁いですぐに家に帰された、エルヴィアート公爵家の恥さらしと追い出されなければ教えてもらえるだろう。両親ならきっと帰されても追い出したりはしないだろうと思えば、少しだけ気持ちが楽になった。

 それよりも今は、あと5時間近くこの揺れに耐えないといけなかった。



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