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作戦変更

「作戦を変えねばならぬの」

「……申し訳ありません」

「いや、そちのせいではない。我も誰も口説き落とせておらぬからな」


 セスは火を守る手を止めて、謝るナギサに慌てて言った。


「いえ、私がもっとうまく話しを持って行けていれば……」


 ナギサが唇を噛む。

 こうなれば梃子でも自身の責任にしようとするのだろうとセスにはわかった。第一、先程も治療中だから安静にしていてほしいというセスの願いを、主に働かせるわけにはいかないからと断って野ウサギを斬って川で冷やし始めたのだ。説得するだけ無駄だろうと、セスの口からため息が漏れそうになる。


「我らだけでは勝てぬから、まずは配下を整えてから足元を固めて、人間どもが軍縮を行うのを待つ、というのがここまでの策の前提だったな」


 代わりに、話を先に進めることにした。


「左様でございます」

「だが実際は、どの国も軍拡を行い、魔族は敵と唱えて侵略を続けておる。勇者の仕事も減ることなく戦い続けており、疎まれる兆候はない。さらに言えば、我らも説得に失敗し続け、敵に情報が流れる始末」


「申し訳ありません。私がしばらくは様子見をと言って動きを止めたばかりに」

「よい。是非を問うのはいますることでは無いからの」


 一拍おいて、セスは口を開いた。


「これまでは生殖隔離が起きていない種族にのみ話を持ち掛けていたな」


 ナギサが川からウサギの肉を持ち上げる。ぶら下げたまま、セスに近づいてきた。


「次からは、交配不可能でありながら会話の通じる相手に持ちかけるのですか? そこまで行けば同種とは見られず、もはや同族意識を持つことなど不可能に近いかと思われます」


 ナギサが右手一本で器用に肉を棒に突き刺し、ウサギを火にくべた。


「いや、近場にもまだ残っておろう。生殖隔離が起きていない種族が」


 ナギサの手が止まった。


「……殿下」

「イタチなどは、非常によく似た種でも交雑が確認されていないのがおるの。それを思えば、交配ができる我らと人間は非常に近い種族だと思わぬか?」


 ナギサの目が下に動き、止まる。

 周りも陽も大分落ち、もう暗いといって差し支えない。ぱちりぱちりと爆ぜる火だけが明るく、それに照らされるようなナギサの顔には影の部分もしっかりとある。


「戦力として期待しているわけではない。取引のあった商人などに、隠れ家などの提供を求め、まずは環境を整える。環境を整えれば部族ごとではなく個人での引き抜きである程度組織も作れよう。ナギサの反応がこれなのだ。予想されることはあるまい。ましてや、我から接触があったなど知られたくもなかろう?」


 ナギサの顔が上がり、セスの方を見た。


「無論、そなたが嫌ならこの案は取り下げよう。家族を殺され同族も殺されたのだ。そう簡単に割り切れるものでもなかろう」


 セスが言うと、ナギサはゆっくりと目を閉じてから、力強く開いた。


「家族を殺されたのは殿下も同じ。それに、種族が同じだからと言って人間全部を嫌っては嫌いな人間共と同じ土俵になりましょう。殿下の提案に、のらせていただきます」

「うむ。助かる」


 セスは前のめりになっていた体を元の姿勢に戻した。そして考える。誰に話を持ち掛けるべきか、どこに拠点を構えるべきか。一番近くにいるのは誰か。

 炎が爆ぜて、ウサギ肉の色が明らかになった。


「そろそろ、ひっくり返す頃合いではないか?」

「……すまない。火に近すぎたようだ。これからはもう少し離して焼くとしよう」


 ナギサが幼馴染の言葉遣いに戻して、セスに返した。


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