最後のE検、結果は。
E検の1次試験の結果がわかるまでの2週間、長い様で短かった。
しかし、ここでまた私はとんでもない事実を知ることとなる。
結果発表の日。この日、私は修学旅行の1日目だったのだ・・・!
E検を受ける時に重なった熱海の模擬と体育祭。そして結果までもが修学旅行と重なってしまったのだ。もちろん、修学旅行を休むことに関しては両親は絶対に許さないし、私だって中学の友人たちと過ごす最後の研修旅行なので、決して修学旅行に行くことを諦める訳には行かなかった。遅くなってはしまっても、結果はどっちにしろ見れるのだから。それに、修学旅行は私が勉強しないで自由に足を伸ばせる期間。そう言い聞かせて、私は修学旅行に行くこととなった。
3泊4日。行き先は広島。初めて行く広島に私は心踊らせていた。
「楽しんで来てね。結果なんてもうわかってることなんだから。あとは1択だけよ。答えは神様にしか決められないわ」
「人事を尽くして天命を待つってことわざがあるんだ。はなこさんはやるだけのことはやったんだから、あとは神様に任せていいんだよ」
修学旅行の前日、私が不安げに窓から夜空を見上げていると両親がそばに来て、元気づけてくれた。夜空もそんな風に言ってくれている気がした。
家族に笑顔で送り出され、大量の荷物を抱えて新幹線で広島へと向かった。
「このメンバーで過ごす研修旅行はこれで最後です。しっかり学ぶことは吸収しつつ、楽しみましょう」
修学旅行のリーダーが新幹線に乗る直前、生徒である私たちに言った言葉だ。
考えてみれば、5ヶ月後に私はもういないんだ。9年間を過ごした学校とお別れになることに感慨深さを覚えた。
何回も大変な乗り換えをしてたどり着いた広島。「学ぶこと」が基本的な目的とした広島。広島はまさに平和ムードで包まれている都市だった。
私たち友人たちはあることに気がついた。
広島の街が白っぽい霧みたいなもので包まれている、と。
これは決して気のせいなんかじゃない。確かに見た、白いモヤ。
広島の原爆ドームを生まれて初めて見た。広島の地に立った時、この下で未だに沢山の人が眠っているのだと考えただけでやり切れない気持ちになった。
「うちら、高等部行ってもズッ友だから!」
友だちと一緒に3つ付いたお揃いのキーホルダーを割り勘して買った。
彼女たちは知らない。私が5ヶ月後にはもう学校からいなくなっていることを。
そう、私はまだこの時、誰にも外部に行くことを伝えていなかった。だからこそ、先の話をされると、胸が痛む場面が多々あった。
皆でお好み焼きも一緒に食べに行った。
「はいっ、チーズ!」
学校では見せなかった様な笑顔を皆がカメラに向けていた。痛ましい気持ちになる時もあったが、それ以外は本当に楽しくて、ハッピーだった。ずっと修学旅行だったら、私も学校楽しいって思えるのにな。と勝手に妄想している自分がいた。
E検の結果について思い出したのは、この修学旅行が終わって大きな駅で解散した時である。私は瞬間的に現実へ引き戻された。
やっば!今日、E検の結果見れるじゃん!
受かるか受からないかなんてどうでも良かったはずのラストE検準1級。にも関わらず、E検のことを思い出した瞬間に心臓がバクバクし始めたのだ。
友だちと一緒に帰ろうとすると、友だちが「トイレに行きたい」と言って、大きなデパートで彼女を待つ羽目になるし、電車は帰宅ラッシュのせいで大きい荷物を抱えた私たちは次の電車を長い間待つことになった。
そして2時間くらいの時を経て、ようやく私は帰路へと辿り着いたのである。時間は夜の8時くらい。
前にE検の結果がわかった時、私は猛ダッシュで家に帰ったが、この日は荷物が多かったこともあったし、わかり切ったことなのだからと悠々帰路を歩いていた。
これで、E検の結果を知る前の私は最後だなー。
そんなことを思った私はポケットに突っ込んであったカメラを取り出し、すでに真っ暗だった夜空にカメラを向けた。そしてビデオを撮り始めた。
「今からE検の結果をこの目で見てきまーす。まあ受かるか受からないかなんてどうでもいいけど、それでも緊張するなー」
そんなことを誰もいない住宅街で1人ぼやいた。
ぼやき終わるとすぐに録画を終え、カメラの電源を切ってポケットにしまった。
いよいよ私の足はマンションの階段を上り終え、家の前に立った。一応、深く深呼吸をしてからドアに手をかけた。
「ただいまー」
「お帰りなさい」
あの日、E検に落ちた時と同じ様に両親が玄関で出迎えてくれた。飼い犬ののび子も一緒に。私は正直、それがあまり嬉しくなかった。だって、光景がまさにあの日そのものだったから。無意識に結果を意識してしまう自分を叱りつけた。
結果なんて、どうでもいい。ただ、全力を出してどれだけ頑張れたか。それを知るだけでいい。そう言い聞かせた。
「E検の結果、届いてるわよ」
「ほんと?わかった」
いつもだったら結果がわかる当日にネットで調べていた。でも今回は私が帰ってくるのが遅かったので、紙媒体の結果がすでに届いていたのだ。
ダイニングテーブルに行くとそこには、ポツン、と寂しげに長細い封筒が置かれていた。まるで、封筒が「待ってたよ」と言っているかの様に。
私は首を振った。
どうせ今回もだめなオチなんでしょ?悪魔の私が囁いた。
ううん、違う。結果なんかじゃない。
これで。私がどれだけ頑張ったかがわかるんだから。苦しみから解放されるだけ、いいでしょ。
天使の私も囁いてくれた。
封筒の端をダイニングに置いてあったはさみで切った。そして一回、目をつぶり、深呼吸をした。
大丈夫。これで、苦しみは終わる。
少しだけ、厚めの紙が折り畳まれていた。
私はそれを丁寧に広げ、両親が息を飲んで見守る中、
結果を見た。
合格。
・・・え?
・・・受かった?
嘘・・・受かったの?・・・私、私・・・
「受か・・・受かった・・・受かったあああああああああああ!!!!!!!」
私は今まで出したことのない大声で思いっきり叫んだ。
「おっしゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
父が大絶叫した後、母も信じられない!という顔で
「受かったの!?!?!?おめでとう!はなさん!」
と私に抱きついてきた。つられて父もその輪に入り、3人で抱き合った。
「受かった、受かった!受かったよおおおおおおおおおおおおおおおお!」
私は思いっきり叫んでやった。あまりの騒ぎに犬ののびこも
「ワンワン!ワンワン!」
吠える始末だ。我が家は物騒だった。でもそれくらい嬉しかった。
まさか、本当に受かる日が来るなんて・・・!
私は声をあげて泣いた。今まで溜まってきたものがどんどん溢れ出てきた。
これは悲しい涙なんかじゃない。紛れもなく、綺麗な嬉し涙だった。
嬉し涙を流したのは、生まれて初めてだった。
ここまで頑張ってきて、本当に良かった。あの時、諦めなくて良かった。あの時の屈辱がついに果たせたんだ!
まだ2次試験が残っていたが、1次試験を突破できただけでも、私からすればこの上ない快挙だった。
私は部屋に戻り、1人になって泣いた。棚の上で私のことを幼い頃から見守ってきてくれた小さな犬のぬいぐるみ「ちいと」を持ち上げ、私は彼女を思いっきり抱き締めた。何だか、ずっと涙が頬を伝って止まなかった。
「ちいと、本当にありがとう!私、私、受かったよ!!!」
気のせいかもしれないが、ちいとも嬉しそうに顔をほころばせている気がした。
「本当におめでとう。はなさんはよく頑張ってたもんねー」
「今日までよく頑張りました。はなこさんはお父さんの誇りです」
部屋に戻ると代わる代わる母と父に抱き締めてもらった。そして
「今度、家族でお祝いしましょう!」
と母が嬉しそうに提案してきた。やっぱり、ここまで頑張ってきて良かったなとつくづく感じた。
その夜、私は1人ベランダに出て夜空を見上げた。満月が少しだけ欠けてしまっていたが、それでも充分な美しい月が町中を照らしている。その周りには宝石みたいな星たちが月を囲んで輝いていた。私は空に向かって笑顔になり、うるさいくらいの声で叫んだ。
「神様、ありがとう!私、まだまだ頑張るから!」




