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The Math Book  作者: Wam
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完璧だった体育祭、そして。

「体育祭の日、晴れるかわかんないらしいよー」


「ねー、もし天気悪くなったら次の日に延期だからねー」


「あ、そうだ! はなこ次の日E検だっけ?」


 友達と3人でいた時。2人の話を聞いて私は飛び上がった。


「え?あ、ああ! そうだよっ!」


「はなこ、E検受けられるかわかんないよ? 何か体育祭の日、雨っぽいし。なんか降水確率70パーセントって言ってるし」


「ら、らしいね」


 平然と答えながらも心の中ではかなり焦っていた。


 あ、雨? やっぱりそうなんだ。


「当日雨だったらE検受けられないかもよー。ドンマイじゃん」


「てかさー、この時期になんで体育祭やるんだと思う?何か毎回雨降る時期じゃん?」


 2人に口々に言われたが、私は覚悟が決まっていた。


「でもどっちにしろ、私受けるからね、E検。体育祭休んででも。だってずっと頑張ってきたことだし。最後にするんだ、E検準1受けるの」


「そしたら残念だねー。皆勤賞じゃなくなるじゃん、3年間」


「あ、それなー」


 2人にあっさりそう言われてしまった。

 

 中学の3年間、そして小学校の6年間、私は一度も学校を休まずに来た。

 小学校の頃いじめに遭っていても、ちょっと体調を崩した時も、両親は絶対に私を休ませなかった。皆勤賞なんてどうでも良かった、正直。むしろ、休んでる人がとても羨ましかった。何せ、学校が大嫌いな私ですから。でも両親は学校を休むことを拒んだ。


 しかし、E検だけは別物だった。それは私がE検に命を懸けてまで頑張ってきたことをしっかり両親は見てくれていたから。E検準1級を受験したのは最初、中2の時。そして2回目に受けた6月のE検。あれだけ頑張ったのに不合格の通知を受け取り、悔し涙を枯れても絞り出した時。


「もう、これで最後にするの。だから、体育祭の日、雨になったら学校休ませてね」


そう言うと、母は微笑んで頷いてくれた。


「うんうん 、そうだよね。はなさんはずっと頑張ってきたから。最後くらいはしっかり受けたいよね。それに天気なんてしかたがないことだし。だからいいわよ。その時は休んでも」


 父も渋々ながら頷いていた。


「そりゃあ、その時はその時だ」


 って言いながら。


 休みの合意をもらっていても、それでも心のどこかで一生懸命練習した体育祭だから、体育祭にも出たいと思っている自分がいた。そう、今年が最後の体育祭。


 毎年必ず何かしらの失敗をしてきた体育祭。でも、今年こそは最後なんだし、成功させたい。そんな思いで放課後、英語の時間や塾の時間を削られても、必死で練習を重ねてきた。前日の疲れが溜まっていても、練習だけはずっと怠らなかった。


 だからこそ、体育祭当日は、やっぱり晴れであってほしいと願わずにはいられなかった。


 その気持ちは、家族皆一緒だったみたいだ。



「はなちゃんの体育祭が晴れることと試験に合格すること、おばあちゃんはそれだけを拝んどくから」


 毎朝、天に向かって拝むことを忘れない祖母は体育祭と試験までの日々、そう言って拝んでくれた。祖母の拝む姿を見る度、私は張り裂けそうな気持ちになった。

祖母だけではない。父や母も、しっかりお祈りしてくれたみたいだ。







 迎えた体育祭当日。天気はこれでもかというくらいの雲一つない晴天に恵まれた。


「今日は体育祭、ちゃんと出来るね!」


 朝、母が窓から綺麗な日の出を見ながら微笑んだ。


「うん、皆のおかげだよ!本当にありがとう!」


「はなちゃん、良かったねえ!」


 祖母も嬉しそうに目を細めた。


「おばあちゃん、神様に拝んでくれて本当にありがとう!おかげで今日、上手くいきそうだよ!」


 私は改めて感謝をした。この日、晴れたことが奇跡中の奇跡だった。


「今日、なんかわかんないけど晴れたね。良かったね、はなこ。明日E検受けられるじゃん」


 体育祭が始まる直前、友達にも言われた。だから私は満面の笑みで


「うん!そうだね!」


 と返した。


今年の体育祭は晴天に恵まれただけでなく、体育祭も悔いのないものに出来た。完璧だった。3月に卒業してしまった先輩にもここで再会出来たし、皆が楽しそうに演技している姿を見て、私は終始ずっと晴れやかな気持ちだった。E検のことはすっかり頭から消え去っていた。きっとそれは、体育祭を心から楽しんだ証なんだと思う。



 体育祭が無事に終わった瞬間に現実に引き戻された。明日はE検だ。

緊張がぶあっと戻ってきた。


「明日だね、E検!頑張ってね、応援してるから」


 無事に体育祭が終わった帰り道、友達に声をかけられた。


「うん、緊張するけど頑張る!」


「はなこなら行けるよー!頑張れ!」


「ありがとう!」


 

          ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 E検までの日々は気がつけばあっという間だったと思う。

 前に落ちてから早4ヶ月。

 ずっとずっと長い道のりだと思っていたのに実際は光に乗って移動したくらいの早さだった。


 当日はリラックスする為に全く勉強せず、久しぶりに遅く起きた。


「ついに当日かー」


 起きてすぐ、ガラッと和室の窓を引き開けて、私は窓から綺麗な空を眺めながらぼそっと呟いた。外を見ることは毎朝と寝る前の日課だったから。


「いよいよ今日だね!」


 母もそばに来て空を見上げた。


「・・・うん。でもすごい緊張するんだよねー。上手くやれるかどうか」


 私は不安げに言った。すると母は大袈裟に私の肩をぽんっと叩いて言った。


「やるだけのことはやったんだから、あとは出し切るだけ!」


 それだけ言うと母は朝食の支度をしに和室を出て行った。

 ずっと私は空から目を離さずにいた。





 朝食を食べ終えた所でちょうど出発する時間が来た。この日、父は出張だったので帰ってきていなかった。


「じゃ、行くわ。そろそろ時間だし」


 そう言って私は試験用の手提げを持った。


「うん、行ってらっしゃい。1人で行けるの?」


「行けるよ!もうすぐ高校生なんだし」


 玄関で母に子供の様な心配をされたので、私は呆れて苦笑いした。


「そう、なら良かった。じゃっ」


 再び母が私の肩に手を置いた。そしてしっかり私の目を見た。


「やれるだけのことはやったんだから、あとはそれを出し切るだけ!頑張れ!」


 母の眼差しからは真剣さが伝わってきた。


「うん、私・・・頑張るから!じゃ、行ってくるわ」


 母の手が私から離れた。直後に私は玄関の扉に手をかけた。


「行ってきます!」


「うん!行ってらっしゃい!頑張れえ!」


 母の声が廊下にこだました。母が私が見えなくなるまでずっと玄関の扉を開けて見送ってくれていることはわかっていたが、絶対に振り返ることはしなかった。


 

 3回目の試験会場。沢山の人でごった返していた。何とか教室に着くと、そこには様々な世代の人が座っていた。私は真ん中辺りで空いている席を見つけて腰を下ろした。周りの人で何人か必死に勉強をしている人が目に入ったが、私は全く何もしなかった。その代わりに自分のことを応援してくれた人たちを頭に思い浮かべた。


 お父さん・・・お母さん・・・おばあちゃん・・・英語の先生・・・友達・・・

 旅先で出会った英語教師夫婦・・・そしてZ先生。


「やれるだけのことはやったんだから、あとはそれを出し切るだけ!頑張れ!」


 母が言ってくれた言葉が頭の中で再びこだました。


 私は手提げからすっかりボロボロになった自作の単語ノートを取り出し、力強く抱きしめた。


 皆がついてるから、大丈夫!


 そう思っていた時、試験官が叫んだ。


「それでは試験を始めて下さい!」


 試験では緊張したものの、妙にリラックスをして授業を受けることが出来た。3度目なのですっかり慣れてしまったせいだろうか。自分が今まで単語ノートに書いていた単語が試験に出てきたし、不思議なことにライティングの内容もどこかで自分が解いたものと似ていた。


 前回は受かることだけを考えていたが、この時は逆に今まで自分を応援してくれた人への感謝の気持ちを込めながら問題を解いた。


家族の皆、ありがとう。


英語の先生、ありがとう。









 Z先生、ありがとう。





 我ながら、最後にして完璧な出来栄えだった。

 別にそんなことは口に出して言わなかったのだけれど。試験が終わってひとりぼっちの帰り道、私は空を見上げて、「神様、ありがとう」と呟いて微笑んだ。


 試験が終わってからも、ずっと「平静」を保った。家に帰ると、母だけが家で待っていた。


「あとは結果を待つだけ!はなさん、頑張ったもんね!今日は好きなだけゆっくりして!」


 夜には父も帰ってきて


「今日はお疲れ様でした。よく頑張りました!」


 と褒めてくれた。


 一喜一憂しても無駄なだけなので、試験が終わって「どうだった?」と聞かれても、私はただ「やれるだけのことはやりました」と答えるだけだった。Z先生にも同じ。

 


 こうして1年くらいに及んだE検準1級の戦いは幕を下ろした。


 

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