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The Math Book  作者: Wam
52/94

激怒した父


 8月も中盤に差し掛かり、いよいよお盆休みが始まろうとしていた。

 夏期講習も中盤も始まってから約一ヶ月、そろそろ終わりに近づこうとしていた。


 この時期に発生した大問題が一つ。それはA先生からなかなか夏期講習の日程が言い渡されないことだった。


 お盆の時期には塾も閉めてしまう。そして夏期講習も残りあと10日ほど。

 国語の先生をA先生に決めてから約10日。国語の日程について何一つ知らされずにいた。


「新しい国語の先生から夏期講習の日程、もらったの?」


 家に帰るといつも父にそう言われた。


「ううん、もらってないよ」


 だから毎回、こう返す。最初は、


「ああそうなんだ」


 で済まされていたが、だんだん父から苛立っている様子が明らかに伝わってくる様になった。


「一体いつになったら夏期講習の日程、決まるの?」


「わかんない、だってA先生いつも会えないんだもん」


 A先生と私はどうやらタイミングが合わないらしく、父に急かされてA先生の姿を探しても、いつも先に帰ってしまうか、そもそも来ていないかの2択だった。


 A先生、なんで来ないんだろ・・・


 そしてA先生のことを探すのを諦めて帰ると決まって父は苛立っていた。

 父は滅多に私に怒鳴りつけたりしない。相当私が悪いことをしない限りは。だから嫌な時は怒ることを我慢して、つい苛立ちの感情をちらつかせてしまっていた。


「もう夏期講習も終わりなんだし、こっちは待ってるんだよ。そろそろいい加減にしてくれないかなー」


「だからA先生になかなか会えないんだって!私だってA先生に会えないし、日程もわからないから不安だよ!」


 そして時にA先生が夏期講習の日程を渡してくれないという理由で口喧嘩に発展することもあった。きっとA先生は他のことで忙しかったのだろう。だが当時の父はA先生に対してのイメージが良くなく、「仕事をちゃんとしてくれない人」というイメージが強かったらしい。


 O先生を選んでたら夏期講習もスムーズに行ったのかな?

 なんでA先生にしちゃったんだろう、あみだくじで選んだことは流石におかしかったかな。


 父と口喧嘩をする度、毎回私は様々な念に押された。正直、本当にA先生を選んで良かったのだろうか、と悩むことも多かった。



 そしてお盆が始まる前日、ようやく私に国語の夏期講習の日程が配られた。


 しかもA先生の手からではなくなんとZ先生の手から、だった気がする。

確か、朝2番目に早い時間帯だった。


「A先生から国語の夏期講習の日程だってー」


 そう言ってZ先生が私に夏期講習の日程表の神をフリスビー投げしてきた。

私は机の上に放り投げられた夏期講習の日程を拾い上げるとすぐに日程を確認した。


 ほぼ毎日入っている国語の日程。しかも中には夜かなり遅い時間に入っている授業もあった。夜の8時から。


 私の父は、私が夜遅くまで外にいることは決して許さない人間だった。夜7時に帰ってくると嫌そうな顔をするくらい。私は夜1番遅い時間帯の授業に強い憧れを持っていたが、私が夜8時から授業だなんて・・・許されるはずがなかった。


 夏期講習の面談の時、事前に父はZ先生に「1番遅い時間帯だけはやめて下さい」と伝えており、Z先生もそれを考慮して決して1番遅い時間帯には授業を入れなかった。


 だから、8時からの授業を見つけた瞬間に顔が青ざめた。

 Z先生はそんな私に気がついていない様だった。


「先生、今日A先生はお休みですか?」


 恐る恐るZ先生に尋ねてみる。


「A先生?ああ、そういえばA先生今日見てないなー。休みじゃん?」


 更に私の顔は青ざめた。やばい、怒られるー。なんでA先生に会えないんだー!


「ん?どうしたの?」


 心配そうな顔をしたZ先生に事情を尋ねられる。



「あ、はい。ちょっとA先生に聞きたいことがあって・・・」


「そっかあ、そりゃ困ったねー。俺、まじでA先生のこと今日見てないから。もしかしたら今日の午後来るかもしれないけど・・・」


「そうですかー。えー、どーしよー」


「まあ頑張って」


 そう言ってZ先生は真顔でガッツポーズをする。

 そのZ先生のポーズがあまりにもおかしすぎて、私は不安をすっかり忘れ爆笑してしまった。





 問題は帰ってきてからだ。

 家に帰宅すると、いつもの様に不機嫌そうな顔の父が待っていた。


「国語の日程表は?」


 ここ10日間のルーティーンへと化したこの言葉。

 しかし、私の返す言葉はいつもと違った。


「今日もらってきたよー、Z先生からだったけど」


そう言って国語の夏期講習の日程を父に手渡した。


「あ、やっともらえたんだ」


 安堵の表情を見せ、夏期講習に目を通す父。

 しかし、それも束の間のことだった。


 すぐに不満げな表情に変わった。


 絶対、夜遅い時間に授業が入ってるせいじゃん!



 私の予想は見事に的中。

 父の顔が真っ赤になっていた。


「なんで1番遅い時間帯に授業が入ってるの?」


「それ、私に言われても・・・」


「でもちゃんと事前に言ってあったじゃん!1番遅い時間に授業を入れることだけは

絶対にしないで下さいって!なのに何も聞いてないじゃん!」


「・・・お父さん、それ、私に怒ってる?」


「違うよ、授業を組んだ先生だよ!A先生だっけ?」


「・・・うん」


「呆れたなー」


「でも決まっちゃものだから」


「じゃあ今から塾に電話しようか?」


 それだけはやめて欲しかった。だって塾の人に迷惑をかけたくなかったから。


「それはちょっと・・・」


「でもちゃんとこっちは事前に希望出したんだよ!聞いてくれないのはおかしいじゃん」


 どうやらA先生、彼が知らない間に父の怒りを買ってしまったらしい。


 私はそのまま黙ってしまった。ほんとはどこかで1番遅い授業を体験できる!と喜んでいた自分もいたはずなのに。


「ちょっとはなこさんはあっちに行ってて!今から塾に電話するから!」


 そう言われたので返す言葉もなく、しぶしぶ私は自分の部屋に戻った。


 しばらくして父の怒った声が聞こえてきた。かなりクレームを入れていた。


「お父さん、いつもは優しいのにあんなクレーム入れるなんて、A先生、相当まずいひとだよ」


 後から私の部屋に入ってきた母も呆れていた。


「でもA先生、可哀想」


「でもしょうがないじゃない。こっちも希望はちゃんと伝えてあったんだから」


 母も父と同意見の様だった。


 正直、父が塾にクレームを入れている声を聞きたくなかった。だから辛かった。


 ようやく父の話す声が途切れたので、私は父のいる台所に向かった。


「お父さん、どうだった?」


 恐る恐る父に様子を聞いた。


「A先生、ちゃんと出たよ。なんだ、ちゃんといるじゃん」


 そうやら電話に出た相手はA先生張本人だったらしい。


「でも、私がZ先生の授業で塾に行った時はA先生、いなかったよ」


「でも今回はA先生がちゃんと電話出たよ」


「で、どうなったの?」


「ごめんなさいって謝られてちゃんとコマ変えますだって。お盆明けにはあるけど。それにしても仕事が遅い先生だねー。しかもかなり平然としてたよ」


 平然としているのは当然のことだろう。何せ、冷静さを保てなかったら先生失格だ。


「でもA先生って真面目だよ」


 A先生のことをかばった。


「へー、そうかなあ、そうは見えないけどねー、まあ会ったことがないから何とも言えないけど」


 お盆が明けてからであったが、A先生と直接日程について話す機会があり、私は父がA先生に少し当たってしまったことを謝罪した。しかし、A先生は何とも思っていなかった様だ。それが唯一の救いだった。


 そんな感じで父は長い間、父はA先生に対してあまり良くないイメージを持っていた。が、そんな印象も覆されることが起きる。それは一年以上後の話。







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