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The Math Book  作者: Wam
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復讐を誓った旅先での出会い


 受験に合格する為に全ての時間を捧げて毎日勉強をし続けたが、2日間だけ勉強を休んだことがある。


 それは家族旅行の時だ。


 たった2日間だけではあったが、「はなこの息抜きの為に」という理由で例年よく行く山梨県の清里という場所に旅行に行くことになった。


 私と両親の3人だけ。どこかへ連れていく度にいつも文句ばかりつける祖母は連れていくことを却下されていた。


 昔はかなり涼しかった記憶があるのにこの年の清里は地球温暖化の影響もあって、かなり暑かった。


「昔、清里って超人気の場所だったのよ。友達が行くって言うと皆で羨ましがったわー」


 車の中で懐かしそうに話す母。確かに母の言う通りだと思った。


 街に行くとお店の至る所に閉店を知らせる貼り紙が貼ってあった。

 廃墟になってしまい、どう見ても現代の建物とは思えない所も沢山あった。


「時代もどんどん変わってしまっているのねー」


 そう言って目を細める母。どこか寂しげだった。そんな母の姿を見て、私はいつか自分も母の様なことを呟く日が瞬く間に来てしまうのだろうと思い、虚しい気持ちになった。





 その日は個人が経営している小さな宿に泊まった。ここの宿も清里に行く度にほぼ毎回お世話になっていた。いわゆる常連客というものだろう。ただ、いつも私たちを出迎えてくれた宿屋の主は亡くなってしまった親戚の遺品整理の関係でいず、代わりに宿主の奥さんに出迎えられた。


「大きくなったわねー。もう受験生?大丈夫よー、ここで息抜きしたら絶対受かるから!」


10年以上経っても、奥さんのほがらさはちっとも変わっていなかった。

宿屋のご主人に会えなかったことは残念だったが、奥さんに会えただけでも嬉しかった。


 そしてここの宿屋では毎回、美味しい食事を用意してくれる。

 ここで、私は復讐を誓うきっかけとなった人物に出会うことになる。


 一緒に夕飯を食べる私たち一家のテーブルの横には、老夫婦がテーブルを囲って食事をしていた。


そこで老夫婦に声をかけられたのだ。


「高校生ですか?」


「いえ、中学生です」


 高校生に間違われる。毎回のことだったので動揺もせずに平然と答えた。

 どういう訳か、この世代の人にはよく実年齢よりも年上に見間違われるのだ。


「ああ、そうなんですね。最近の子たちは大きいですよね」


 この老夫婦はかなり言葉遣いもきちっとしていて品のある人たちだった。


「そうですよねー」


 そう言って私の両親が笑った。


「私、今年、受験生なんです。英語系の進路を考えているんですけど、なかなか進路を決めることが難しくて・・・」


 すると何も話さなかった父が、私が英語系の進路を考えていること、E検準1級に落ちてしまったことを話し始めた。


「中3で準1級を受けたんですか?」


 と2人は驚いていたが、落ちたと知ったときは「でしょうね」という顔をしていた。


 しかし、父が「スコアが−1で落ちちゃったんですよ、それで娘はすっかりもう受けないって言い出してしまって・・・」


 と言った瞬間に老夫婦は顔色を変え、


「それはすごい!絶対次受かりますよ!諦めるなんてもったいない!」


 と私のことを褒めてくれた。


 次、絶対受かりますよ。諦めるのはもったいない。


 その言葉が妙に私の中に響いた。



 そして、老夫婦の主人が驚くことを口にした。


「あとちょっとまで言ったなんてなかなかですよ。お嬢さん、ここであきらめたらもったいない。私、実は大学教授をしていて英語を教えているんです」


「大学教授!?」


「妻も高校の英語教師をしておりまして・・・」


 これには私だけではなく、両親もかなり驚いていた。

 この夫婦、実は2人そろって英語教師だったのだ。だから、この老夫婦は品がある人たちだったんだ。これで謎が解けた。


「お嬢さんは何級をお持ちなんですか?」


「E検2級を中学校2年の時に取得しました」


「それはすごいです」


 老夫婦はすっかり感心していた。


「海外に留学されていたことはあったんですか?」


「いえ、長期留学はしたことがありません」


「いやあ、それはすごいです」



 2人に褒められて、私はすっかり嬉しくなっていた。


 この夕飯の時に限らず、翌日の朝食の時まで私たちは老夫婦の仕事の話を聞いたり、私の英語に関する生い立ちの話を語り合っていた。


 せっかくの機会だったので、私も英語の勉強法に関する質問を沢山投げかけた。どの質問にも明確に答えてくれる老夫婦の姿に、私は偉大さを感じた。


そして、最後の朝食が終わり、別れ際に言われたこと。


「それではお嬢さん、英語の勉強頑張ってください。きっと次は合格しますからね。陰ながら応援しています」


 力強い応援メッセージだった。

 まさか、旅先でこんな縁に巡り合えたなんて。

 人生とは不思議なものだ。

 今まで知りもしなかった人と何かしらの運命で急に出会い、そして時にその人たちのおかげで人生が変わるから。


私は彼らの言葉を胸に、再びE検準1級に挑戦することを決意した。ただし、私の中 では条件があった。


 これはあの老夫婦と別れて宿を出た後、車の中で両親に言ったことだ。


「私、もう1回だけ準1級に挑戦してみる。でも、これはもう受かっても受からなくても最後にするから」


 それから、私は最後の「英検準1級」に「復讐」をする為に、全力で勉強を始めた。

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