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The Math Book  作者: Wam
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将来の夢はニートです。

 ニートになりたい。

 きっかけは母に将来のことを相談したことである。



「ねねーお母さん。私ってさ、将来何すればいいと思う?」


「はなさんがやりたいことでいいんじゃない?好きな様に」


「でも本当にやりたいことがよくわかんないんだよ。何かないかなー」


「はなさんの好きな様にすればいいのよ。お姉ちゃんなんか、塾の先生にニートになりたいって言ってたらしいわよ」


「ニート!?」


「そう。塾の先生がね、『将来何になりたいの?』って聞いたら『ニート』って返ってきたみたいで・・・」


「それは知らなかった。でもお姉ちゃんらしいね」


そう言って私はおかしくて笑った。


 そう、私の姉は私にとっては発想の天才である。

 特にパソコンを操ることが異常に上手かった。 高校の時、情報で1位を獲得したことがあるという姉。パソコンの写真を上手く合成してよく変な写真を作っていた記憶がある。姉がまだ家にいた頃にはよく突拍子もない発想をもとに変な作品をパソコンで作って、それを家族に見せては爆笑させていた。


 そんなちょっとオタクチックな姉だったが、私とは真逆の性格をしていた。私が幼稚園の時、姉は高校生だったが、姉は常に友達に囲まれており、いつも友達といると笑顔だったことを今でも記憶に焼きつけている。私はそんな姉がうらやましかった。


 ニートになるなんて姉くらいしか発送できない。

 ぶっ飛んだ発想の持ち主。

 だから私は「お姉ちゃんらしい」と思ったのだ。


「そうよね。だからね、面談の時にね、先生から『***ちゃんに将来の夢を聞いたらニートになりたいって言ったんです』ってすごく心配してたわ」


「その塾の先生も可愛いね。女の先生?」


「そうだったよ。あとでお姉ちゃんに『本当にニートになりたいの?』って聞いたら『冗談だよ』って言われたわ」


「そりゃそうでしょうね」



 このニートのネタがあまりにも面白くて頭から離れずにいた。


 そしてふと思いついたのだ。


 今度Z先生に「将来の夢は?」って聞かれたら『ニート』って答えよう。

 どんな反応するかな?


 そう、我が家の娘2人して、「将来の夢はニート」と塾の先生に言ってみる。

 将来の夢がなかった私にとっては面白いネタだった。


 


 そして夏期講習のある日、『ニート』のネタを実践するチャンスが訪れた。

 

 この日も他の生徒と一緒にZ先生との授業を受けていた。

 知らない人と一緒であることに慣れない私は相変わらずZ先生たちの会話に入れなかった。嫌ではあったがもう仲間外れになってしまうことには慣れていた。


 


 その瞬間は唐突にやってきた。


「えーーーっとお姉さんって将来の夢なんだっけ?」


 これで3回目くらいだ、Z先生から将来の夢について聞かれるのは。


 いつもだったら、Z先生にまた忘れられたとなげくのだが、この時ばかりは好都合だった。


「私ですか?」


 シャーペンを動かしている手を止め、Z先生の方へ顔を向けた。顔がにやつく。


「うん。英語関係かな?」


「いえ、ニートです」


 即答。Z先生の顔色を伺った。


「それはやばい」


 Z先生も即答。顔は笑っていた。


「ずっと家に引きこもっています」


 更に言葉を付け足してみる。Z先生は完全に呆れ顔だった。


「ねえお兄さん。横にいるお姉さんやばいよ。将来の夢、ニートだって」


 横にいた少年が手をとめた。彼はメガネをかけていて賢そうな人だった。


「だって本当にやりたいことがないんですもん」


 私はそう言い張る。


「やばいですね」


 一言だけ、そのメガネの少年に声をかけられた。


「ねー。やばいよね」


「だってしょうがないじゃないですか」


「でも考えてごらん。きっと君のお父さんお母さん苦労するよー、ニートだと」


「じゃあどうやってやりたいこと見つけるんですか?」


「ハローワーク」


 即答、再び。


「ハローワークですか。見つかりますかねー」


「うん、見つかると思うよ」


「そういう先生は将来の夢はなんですか?」


「俺?俺かあ」


 不意に自分が質問したことと同じ質問をぶつけられて困り出すZ先生。


 しばらく頭を抱えて、遠くの方を見つめながら考えていた。

 私はZ先生が答えるのを待った。


「俺、将来の夢、まだないわあ」


 Z先生のことだから、なさそうだと思っていたが見事にその予想は的中した。


「じゃあ、先生も私と一緒でニートですか?」


「いや、それはない!!」


 Z先生は「ニート説」を速攻で否定した。


「ニートになりたいって言ったのはお姉さんくらいだよ。どうしたの?」


「実は私のお姉ちゃんも同じニートになりたいって言ってたんです」


「D村家は姉妹そろってやばいんだな」


「そうかもしれないですね。私、小さい時にお姉ちゃんがよく聞いてたニートの歌で育っているんで」


 これは事実。


「やばあ」


「え?知らないですか?」


「何それ?知らない」


「有名な歌の替え歌ですよ」


「へー」


「今度調べてみてください」


「いや、調べないわ。俺すぐ忘れるから」


「でしょうね。先生のことですから」


 Z先生は否定せず、ただ笑っていた。でも速攻で真顔になる。


「まあ、ニートにならずに頑張って将来の夢を見つけて下さい」


「先生もですよ」


「俺はニートにならないから大丈夫」


 そう言って、Z先生はまたくしゃっと笑った。

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