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The Math Book  作者: Wam
22/94

80歳のおばあさん

桜の季節が終わりを告げ、至る所で桜が散っていく姿を見かける様になった。


 私が春期講習中に家から駅に通っていた道には、散っていった桜と入れ替わりに新緑が目立ち始め、緑が街中を覆う季節となった。




 私の学校では毎年この季節に合宿があった。それは生きることを学ぶための合宿であり、学校内ではかなり有名な行事であった。中高一貫校ではあったが一応、中学生としては最高学年。合宿に向けて最高学年である私たちクラスメイトの間で役職を決め、授業時間を削ってまで合宿の準備に勤しむ生活を送っていた。


 


 私は合宿で使う道具の出し入れを管理することなり、毎日学校中を走り回っては


合宿で使う道具を運び出し、雑巾を使って丁寧に吹いて合宿当日に綺麗に使えるようにしていた。そして合宿中に使う体育着を忘れた人がいた時に備え、体育着をそろえるという仕事もあった。




 当時は毎日動き回ったせいでくたくたでたった週に一度の塾の時も疲れ切ってまともに授業に集中できない時もなくはなかった。




 なるべくZ先生に疲れ切った表情を見せたくなかったが、よほど疲れていた時はどうしても机に突っ伏すことが多かった。もちろん、当時の場合は授業開始前の話ではあるが。


 まだ、ある意味やさしかったZ先生はそんな私が起き上がるまではずっと黙って待っていてくれた。


 


 ある日、話すことがなくなったので自分が疲れている話をした。




 


「最近、学校の仕事がいそがしいんですよねー」




 問題を解いている手をふと止め、小さく呟いてみた。


 




「あー、合宿の準備だっけ?」


 なんとか私の小さな呟きはZ先生に聞こえていたらしい。Z先生も何かを書いている手を止め、私に向き直った。


 何度も私の学校にはユニークな合宿があることをZ先生に話していたので、流石にこの時ばかりは覚えてくれていた。




「はい」




「お姉さんの学校って結構変わってるよねー」




「はい、たぶん。合宿にしては結構厳しいですもん」




「俺が中学の時は合宿なんてなかったよ」




「でしょうね。私の学校ってちょっぴり変わってますから、いろいろ」




 「ねー」


 


 Z先生はいつもの様に手をパキパキさせながら相槌を打った。




「学校の道具を合宿で使うんでわざわざ倉庫から引っ張り出すんですよー。それがすっごい腰にきて・・・」




「何年寄りみたいなこと言ってるの?」


 


 御最もな意見だ。私はまだ若いのに知らず知らずのうちに年寄りの様な相談をZ先生にしていた。




「だってお姉さんは・・・いくつだっけ?お姉さん」


 


 もう一緒にいて少なくとも三ヶ月くらいは経っていたのに私の歳さえも覚えていなかった。




「14歳です」




 Z先生、人に関心なさすぎでしょ・・・。心の中で私は嘆きながら答えた。




「14か・・・」




「でも最近、まじで疲れすぎてもう精神年齢は80歳くらいなんですよ」




 この言葉は墓穴を掘った。


 Z先生の表情がいきなりいたずらっぽくなる。




「じゃあもうおばあさんだね」




「・・・まあそういうことですね。私もう心は歳なんですよ。疲れて嫌になっちゃいます」


 


 この時はZ先生がネタにしようとしているなんてちっとも気がついていなかった。





 それ以来、しばらくの間、私が疲れたとぼやくと、Z先生は




「もうおばあさんだもんね」




 とにやつくようになった。




 最初は許していたものの、だんだんZ先生は何かとつけて




「もうおばあさんだもんね」




「見た目は14歳の少女なのに精神年齢は80歳のおばあさん」




 などとあきらかに「80歳のおばあさん」とネタにすることが多くなった。




「先生、私これでも一応14歳なんですよ」




 と言い返したことがあったがZ先生はいたずらっぽく笑って




「え?だって自分で精神年齢80歳っていったじゃん」




 と答えるだった。




 まあZ先生にいじられてむしろ嬉しかったが(私はドMではありません)


ついに反撃のチャンスが訪れる。




 


 


 ある日、いつもの様にZ先生の授業を受けていると妙にZ先生が腰をさすっているのだ。これはなにかあったのかもしれない。不思議に思っているとZ先生から口を開いた。




「俺さー、最近腰が痛いんだよねえ」




「腰ですか?」




「そう、なんか接骨院に行ったんだけど治療する必要があるらしい」




「え!?まじですか?」




「うん、まじ」




 治療する必要があると聞いて一気に心配になった。




「大丈夫なんですか?先生」




「いや、大丈夫じゃないかも、めっちゃ痛い」




 そう言って腰をさすり、「いったあ」と顔をしかめるZ先生。




「なんか腰治すいい人知らない?」




「私の父はどうですか?」




「おお、君のお父さん、そんなすごい人なの?」




「いや、すごいのかはわからないんですけど、一応理学療法士です。なんか腰を治すことを専門にしています」




「えぐいなあ、君のお父さん」




 父のことをほめられて少し照れた。ほめてくれたのは嬉しかったが、ここで話を終わりにするのもなんだか面白くない。




 そこでいつもZ先生が私を「おばあさん」と言ってからかうように私もからかい返すことにした。




「先生ももう歳なんですね」




「そうかも、俺もう歳かもしれない」




「もうおじいさんですね」




「そうかもしれない」




「じゃあ私と一緒ですね」




 ようやく私にからかわれていることに気がついたのか、Z先生が思いっきり苦笑いをした。すかさず私はZ先生にからかいの言葉を投げ続ける。




「もう先生じゃなくて、おじいちゃんって呼んでいいですか?」




「いや、俺まだ若いよ?20代だし」




「でも精神年齢がー」




「うるさいなあ!俺はまだ若いってば!」




笑いながらZ先生が言う。




「いや、精神年齢は私と一緒ですね。お互いおじいちゃんとおばあちゃんなんで頑張りましょうか、大変ですけど」




 こう言い放つとZ先生は返す言葉がなく、ただ苦笑いしていた。


 ようやく反撃出来たとZ先生が困っていることに満足しながら私も笑った。



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