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The Math Book  作者: Wam
21/94

見え始めた変化

学校の授業も通常通り始まっていた。


 学校の担任が発表されてから数週間。


 私の担任は数学の先生だった。




 そしてついに授業が始まったのだが、数学の授業が始まってすぐに異変に気がついた。


 




 あれ、数学の授業についていけてる。


 逆に、余裕じゃん。




 今までの私だったら絶対にありえないことが中三の数学では起きていたのだ。




 数学がわかる。




 当時は数の展開を勉強していたのだが、すでにZ先生に因数分解を教えてもらっていた私からしたらその授業は余裕という感覚だった。


 まわりのクラスメイトが理解をするのに必死な中、私は余裕で学校の宿題であるドリルを解いていた。展開の理解が容易だったのでたまに授業を真面目に聞きつつも授業時間中に学校から出された宿題を終わらせてしまった。




 逆にわからないことがないのでこのままで本当に大丈夫なのかと焦っていたほどだ。




 中二の時に数学とは一変、中三の時の学校の数学で苦労した覚えは全くない。




 仮に数学でわからないことがあったとしても、担任である数学の先生かZ先生に質問をして疑問を解決していた。




 






 変わったことは数学だけではなかった。




「はなこ、最近明るくなったよね!」


 


 周りの友人いはく、私の性格が前よりもずっと明るくなったという。


 きっとそれは、自然にZ先生の影響を受けていたからなのだろう。


 


 Z先生の癖が移って変なものまねや言動を発する様になったのだ。


 無意識にそうなっていた。そして少しずつではあるが人間関係の問題に関しても、素の自分を出して人と接そうとするうちに、苦手だった人とも普通に話せる様になっていった。


 


 性格が明るくなり、人間関係に悩まなくなったのは間違いなくZ先生のおかげだった。そのことでお礼を言ったことはないが、今でも心からZ先生には感謝をしている。






 そして五月には中間試験というものがあったが、このテストで見事73点をとることが出来た。きっと73点という当時の自分からしたら超高得点を取れたのは、Z先生と雑談をしつつ宿題戦争をしながらも一生懸命中間試験の勉強に励み、家に帰ってからもずっと数学の勉強をしていたからこそ報われたものなのだろう。




 中間テストの結果が帰ってきた時も宿題を出すのと一緒で、正直に結果をみせるのではなくちょっとからかってから試験結果を渡していた。




「この前の中間試験の結果、返って来ました」




「おー」




「はい」




「・・・」




「・・・で?」




「・・・はい?」




「結果は?やばい?」


 


 早速点数について問い詰め始めるZ先生。


 すぐに答える訳がない。




「やばいと思います」




「え?何?30点とか?」




「いや、もっとやばいです」




「じゃあ0点?」




「はい」


もちろん、それは嘘だが。




「それはやばいなあ」




 頭の後ろに手を組み、天井を見ながら呟くZ先生。


 また沈黙が訪れる。




「・・・」




「・・・で」




「はい」




「見せて」




「・・・え?」




「え?」




 二人で顔を見合わせる。




「え?」




「え?」




「え?」




「え?」




 しばらく「え?」の合戦をし合った。


 Z先生がわざとらしい困惑した顔を私に見せたので笑わずにはいられなかった。




「ほら、お姉さん!笑ってないで結果を見せて!」




「え?なんのことですか?」




 明らかに目の前に点数が書かれた問題用紙を持っていたのに私が全く見せようとする素振りがないので、Z先生の困惑した顔はより一層濃くなった。




「だからそのテストの結果だよ!」




「見せたくありません」




「なんでだよ!見せるだけだよ」




「だって点数やばいんですもん」




「だから俺はそのやばい点数が見たいんだって!早く渡してよー」




「えー」




「はーーーやーーーく、はーーーやーーーく」




 手拍子に合わせて催促をしてくるZ先生。


 そんな彼が催促する姿が可愛らしくておもわず釘付けになっている自分がいた。


 


 これでもまだ当時の自分はやさしかった。・・・と思う。


 さすがにここまでいじめるのは可哀想かな。


 そんな良心を持っていたから。




 ちょっと渋りながらも結局Z先生に点数を見せてあげた。


 点数を覗き込むZ先生。そのまま私の手からテストを奪い取った。




「っっっっっっっ先生!返して下さいよ!私のテスト!」




「いいじゃん、ずっとテスト結果返してくれなかったんだし。・・・なんだ、まあまあいい点数じゃん。73点か。どこがやばいんだよ、全然やばくねえじゃん」




「へへへへへ」




 照れ笑いをする私。


 さっきまで試験結果を食い入る様に見つめていたZ先生だったが、いきなり彼の視線が私の方を覗き込んだ。




 しかも、その顔はー




 究極の真顔だ。





 私の照れ笑いが爆笑に変わった。




 「何ですか、先生?なんでそんな顔で見てくるんですか?めちゃくちゃ面白くて笑っちゃうじゃないですか!」




 爆笑で自分の発する言葉が途切れ途切れになってしまった。




「いや、そっちこそ人の顔を見て笑うな」


 


 つられてZ先生まで笑い出す。




「凡ミスなくせば80点行ったのにね」




 前回の期末試験と同じ様に釘を刺された。




「でも先生、私数学のテストで70点行ったの、生まれて初めてですよ」




「そうらしいね」




「そうらしいねってなんですか?」




 軽くZ先生を睨みつけるとZ先生はくしゃっと笑った。




「私の今までの数学の最低点、何点だと思いますか?」




「10点?」




「おしい」




「0点」




「いや、そこまで低くないですから!15点です」





「ああ〜、確かにそんな点数取ってそうだなあ」




「え?ひどくないですか、先生!私のことそんな風に思っていただなんて・・・」




「だって最近、いろいろ反抗するじゃん!」




「してないです!」




「いや、明らかにしてるわ!」


 


 そしておかしくてしばらく二人で笑い合っていた。


 その後は真面目に試験で間違えた所の解説を受けたのだが。




 それから二度と、数学で半分以下の点数を取ることはなかった。


 それはZ先生が私の数学の先生でいてくれたから。


 

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