調理
「お前、今、俺にも出来るって思っただろ」
「……」
「銀行の暗証番号は絶っっ対、教えねーかんな!」
目の前を漂う先輩の霊。
お前がカレー屋を助けろ、と命令してきたんだろう。
しかし、なぜ自分の考えが見透かされてしまうのか。
こうなったら……
「……仕方ない。 少し傷みますが、我慢して下さい」
「へ?」
俺は右手の指先で一筆書きに五芒星を描き、呪文を詠唱した。
「破、滅、陰、陽、蛇、退、黒、白、右、左、右、右、左腕よ、消し飛べ!」
「は? お前、ばっかじゃ…… ギャアアッ」
先輩は短く悲鳴を上げ、気が付くと、左腕が消滅し、その箇所から煙のようなものが上がっていた。
後退りながら先輩が叫ぶ。
「なんだよコレッ…… お前、陰陽師だったのか!?」
「いや、適当にやったら出来ました。 次は、右腕を頂きますよ」
俺が利き腕の指を2本前に突き出すと、先輩はその場で土下座した。
「降参だっ、ハァ、ハァ…… 暗証番号は教えるからっ、許して、くれっ……」
俺は五芒星の一辺を描く。
「1192! イイクニ作ろう、の1192だよっ」
「ありがとうございます」
先輩は恨めしそうな目つきでこちらを見やったが、相手は所詮霊魂。
俺の思考を読む以外、大したことは出来ないだろう。
俺はそのまま駅前のATMへと向かった。
10万円を引き落とし、先輩の部屋へと戻った俺は、パソコンからAmaz○nにアクセスし、カレー屋の補修に使えそうな道具類を購入することにした。
余震が起きても棚が落ちてこないようにするL型の金具に、それを繋ぎ止めるビス。
コンクリの亀裂を補修するためのボンド、工具類しめて5万円。
また、カレー屋で食べたバーモントは宜しくないと思った俺は、本格的なインドカレーを自作するべく、スパイスを何点か購入した。
翌日、工具類とスパイスが届き、俺は早速、自作のインドカレーを作ることにした。
散らかった食器類を一旦片し、まな板にタマネギを乗せる。
ちなみに、必要な野菜類は駅前のスーパーで購入した。
タマネギは出来るだけ細かくみじん切りにし、それをフライパンに移す。
「何作ってんだよ」
先輩が横から顔を出して聞いてくる。
「世界一うまいバターチキンカレーですよ」