表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

猿の過去

 こなさなければならない業務の数々を前に、カレーが運ばれてくるまでの間、俺は過去の自分のことを思い返していた。










 それは、俺が33才の時だった。

30の時に入ったIT企業も長く続かなかった俺は、自分には何か欠陥があるんじゃないか? という疑問を頭の片隅に抱くようになった。


(他の人は一つの会社を長く勤め上げる。 俺は社会に適合しない人間なのか?)


 原因があるなら早めに取り除くか、それが叶わないのなら、俺に見合う生き方を見つけなければならない。

焦っていた俺は、就活帰りの電車の中、スマホでネットを開き、こんな言葉を見つけた。


「ADHD、多動性障害……」


 色々なものに興味が向いてしまい、注意が散漫になって業務をまともにこなせない。

職を転々とする自分は、もしかしたらこれに当てはまるのではないか、そう思い、いてもたってもいられず、病院に予約を入れた。

 翌日、都内にある発達障害の相談を承っているクリニックに足を運んだ。

クリニックでは、20の質問に答えるペーパーテスト、IQ診断を行い、面談を行った。


「堀ノ内猿彦さん」


「……はい」


 名前を呼ばれ、先生の個室に入る。

診断結果を教えてくれたのは、天パーメガネの若干キツそうなおばさん先生だった。


「あなたは至って正常。 IQも平均値より高いし、優秀な部類よ。 中には自閉スペクトラムの性質を持つ人もいるけど、あなた、堂々としてるからそれは無さそうね」


「しかし…… 私は職を……」


「社会には症状が強く表れて、自分の努力ではどうしようもない人だっているわ。 あなたの場合、職場を変える理由は、ただ単純に興味が薄れたから。 もう33才なんでしょ? いい加減自分の道を見つけなさい。 30を越えたら人はそれまでの経験を活かして自己実現を行っていくものよ。 それが出来ない人は、一生、何も成せないわよ」


 帰り道、俺は先生に言われたことをずっと考えていた。

会社を転々とする理由は、会社に適合しないからではなく、打ち込むべき仕事をしていなかったから。


(それなら……)


 俺は自分がやるべき事は何なのか、部屋に引きこもって考えることにし、約一ヶ月後、その答えに辿り着いた。

そして、それを成す為に、俺は自分の会社を設立することにした。








 俺はまだ、ここで死ぬわけにはいかない。

やるべき事をやらなければ……


「はい、お待ち」


「……!」


 カレーが運ばれてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ