カレー屋
店内は薄暗く、カレー屋特有のスパイシーな匂いが漂う。
入り口の扉に閉店等の看板は掲げられていなかったが、営業中なのかハッキリしない。
「すいませーん」
「……何だよ、客か?」
奥から響いたのは、低い男の声。
カウンターの向こう側から、タオルを巻いてタバコを口にくわえた男が現れた。
(……店の人間か?)
俺は少し面食らってしまった。
インドカレー屋なら大概インド人が経営しているが、この店主は日本人。
どちらかと言えば、ラーメン屋のような出で立ちだ。
年齢は40才くらいか。
店主は目を細めてこちらを伺っている。
「注文は?」
「あっ、少し待って頂けますか」
俺は慌てて店のメニューに目を通した。
チキンカレー、ダールカレー、ホウレンソウカレー、日替わりカレー。
値段は700円で、100円増しでラッシーがついてくるようだ。
この店主の情報を知りたかった俺は、メニューを選びつつ、話題を振ることにした。
「全然人いないですよね。 やっぱり震災でお客さんは減ってるんですか?」
店主はタバコを口にくわえながら、たりめーだろ、と言った。
「今はどこもそーだろ。 コロナの影響で、客足はさっぱりだ」
(コロナ? ……蔓延しているウイルスのことか)
店主は、吸ったタバコを灰皿に押しつけ、更に一本取り出した。
「アンタも3日ぶりの客だよ。 俺ァてっきり借金の取り立てかと思ったからな」
どうやらこの店主、商売の方は上手く行っていないと見える。
この接客の様子じゃ、カレーの味が良くてもすぐに口コミで低評価をつけられてしまうだろう。
店主は話を続ける。
「この前なんて、黒いスーツ着たアンタみたいな取り立て屋が来てよ、次金払えなかったらハジキで頭撃ち抜くぞ、とか凄まれちまって。 こっちも、やれるもんならやりやがれ! って言い返してやったよ」
ケラケラ笑いながら話しをする店主。
俺は、後ろにいる先輩の魂の方を見た。
先輩は特にリアクションはしなかったが、まさか、この店主がこの先死ぬとして、それは他殺の可能性もあるのか?
俺は、チキンカレーを注文して、店内を見回した。
(地震で亀裂が入っているな。 余震で倒壊したら、生き埋めになるんじゃないか)
自殺、事故、他殺。
考えうる可能性を一つずつ潰していく必要があるか。