苦い思い出
今思えば、そういう時期だったのかも知れない。
俺は中学生になり、人からどう見られるのかがとても気になる年頃だった。
今まで別に人前で歌うのなんか屁でもなかった癖に、途端に音楽の授業が嫌いになった。
音楽自体は好きだ。
B'○とか、ミス○ル、ラ○ク、グ○イ、聴く曲はたくさんあったし、バンドは格好良かった。
ただ、女子とかの前で歌うのが小っ恥ずかったんだ。
俺は先輩のアパートの自室で、グラスに入ったウイスキーをロックで煽りながら、そんなことを思い出していた。
先輩はとっくに眠りについていて、俺は魂だけの姿になっても眠くなるんだな、と独りごちた。
(まあ、先輩が起きてたらこんなハズいこと、思い出せないけどな)
こんな頭の中を覗かれたら、ずっとネタにされるに違いない。
で、なんでこれが苦い思い出なのかと言えば、問題はこの後だ。
合唱コンクール。
俺はこれの本番を口パクで凌いだ。
課題曲と選択曲とがあり、俺のクラスは選択曲でかなり良い曲を引いた。
優勝間違いなしと思われたが、結果は惨敗。
ある奴がこんなことを言った。
「俺、納得いきません! あんだけ朝練したのに、もっかい録画見て、原因突き止めましょうよ」
みんながそれに同意した。
俺は冷や汗をかいた。
教室がカーテンで遮られ、テープが流れる。
俺は、スクリーンを直視出来なかった。
何とかビデオが終わると、俺はそそくさと教室を出た。
トイレに籠もって休み時間をやり過ごしていると、誰かが個室の前に立ち止まって、言った。
「原因はお前か」
これが、俺の音楽に対する苦い思い出。
クラスのみんなへの借りだ。
俺はその時の借りをここで返上しなきゃならない。
ノートに3色ボールペンで歌詞を書き綴る。
何枚も何枚もやり直す。
書いた歌詞には何本も失敗の線。
その中で、使えそうなフレーズには赤で丸をした。
夜の帳が降りる頃、俺はどうにか最後まで歌詞を完成させることが出来た。
タイトル:処方箋(仮)
Aメロ
家にいると無意識に流れるワイドショー
感染者が何人だとか、気分を暗くさせるばかり
人々は違法な薬に頼って何とか日々を過ごしてる
Bメロ
意志を強く保てforyou
自分の本当にやりたいことは何なのか
自分に負けるな
サビ
火薬の代わりにスパイスで
自分の導火線に火を点けろ
いつか世界に羽ばたく為に
華麗なるカレーパン
自己の免疫を高めろ
これが唯一の処方箋
翌日、出来上がった歌詞をスナックの南ママの所へ持って行く。
「……いいじゃない。 今の世の中への応援歌って感じね。 何か良さげなメロディつけたげるわ!」
こうして、更に数日後、この歌詞に合った曲が完成したとカレー主の元にママから連絡が入った。




