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ママ

「朝倉南、50才、この前、何も無い所で思い切りコケました!」


 何故かレオタードを着て、リボンをクルクル回しながらネタを披露したのは、某野球漫画「タッ○」に出てくるヒロイン、朝倉南と同姓同名のママである。

カレー主が指笛を鳴らしながら、いいぞ! と野次を飛ばす。


「何でこんな恥ずかしいことしなきゃいけないのよ」


「いいだろ。 初対面の人間には必ず披露する決まりじゃねぇか」


 朝倉南ことママは、カウンターに腕を組み、胸の谷間を見せつけながら言った。


「今日は久々のお客さんだから、一杯目は私の驕りよ」


「……ありがとうございます」


 特段、胸を見たいわけでは無く、やや目のやり場に困ったが、俺はその言葉に甘え、生を注文した。

俺とカレー主、ママの3人で部屋の半分が埋まる小さな店内で乾杯のグラスを掲げる。

カキン、という音が鳴り響くと、俺は金色の冷えた液体を喉に流し込んだ。

話題は流行のウイルスについて、それからすぐにカレーの曲の話になった。


「今、曲をある人間に頼んでたんですけど、多分そいつ、バックレました」


 あての塩辛をつまみながら、俺は毒づいた。


「俺もドラムとかなら学生時代かじってたんだけどなぁ…… 曲は作れねーわ」


 カレー主が手をクロスさせてエア・ドラムを披露。

すると突然、ママが言った。


「……私、昔ピアノやってたけど、曲、作れるわよ」


「えっ」


 思わず、ママの方に向き直った。


「芸達者とは思いましたが、作曲も出来るんですか?」


「うん、こう見えて、小学校からピアノやってたの。 中学の時は合唱祭でピアノ担当だったし、高校の時は吹奏楽部だったのよ」


 どうやら、音楽歴はかなり長いようだ。

それなら、任せてみるか?


「それなら是非……」


「あ、でも作詞は貴方たちどっちかがやってよね。 先にそれ見て、イメージ湧かせたいから」


 それに即座にカレー主が反応する。


「作詞なんて俺はやらねーぜ。 いくら俺の店のだからって、センスの欠片もねんだからよ」


「……」


 俺は、半分になったグラスのビールを眺めながら、どうするか返答に困った。

ママの話を聞いて、苦い昔のことを思い出してしまったからだ。


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