スナック
ドミノが曲を作ると意気込んでから、一週間が経過した。
俺はトイレの個室でウンウン唸りながら呟いた。
「あいつ、バックレやがったか」
正直、奴には大して期待もしていなかった。
最悪、バイクはこちらの手元にあるため、カレーの曲はまた別な人間に頼めばいいかも知れない。
トイレのドアからひょこと頭だけだして、先輩が言った。
「曲とかなら俺に任せてくれって、なあ!」
「……」
先輩はかつてビジュアル系デスメタルバンドを組んでいたことがあるが、そんな曲を町中でかければ迷惑甚だしいだろう。
マフラーを外して走り回るバイクと一緒で、あえて口には出さないが、内心「くそ食らえ」なのは間違いない。
先輩の言うことは無視して、俺は大をすることに集中した。
「おいおい、つれねぇな。 お前だって俺の音楽的センス……」
「……」
そんな日の夜、俺とカレー主はとあるスナックへと足を運んでいた。
「たまにゃ良いだろう。 そーしゃるなんたらを保てば問題あるめぇ」
これから向かうのは、カレー主の行き付けと言う駅前のスナック。
政府が機能しなくなり、代わりに東京都知事が都の指揮を執るようになると、間もなく「緊急事態宣言」なるものが発令された。
これは、今から約一ヶ月前の話で、ウイルスの感染を防ぐため、飲食店は営業を自粛するよう呼びかけたものだ。
これが昨日ようやく解除され、カレー主も久々にそのスナックに行けるようになった。
「南ちゃんは年は50で俺より大分年上なんだけど、化粧がうめぇから全然見えねんだわ」
「好きなんですか?」
「……は!? おまっ、急に何言ってん…… ばっきゃろ、おちょくんじゃねぇよ!」
あからさまに慌てた素振りのカレー主。
これは、まんざらでは無さそうだ。
そんなどうでも良いことはさておき、俺たちはぼんやりとネオンの看板の光る、お目当てのスナックに到着した。




