表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツンデレ治療師は軽やかに弟子と踊る(タイトル詐欺)~周りは二人をくっつけたい~   作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/76

それは、クリスなりの整理と、ルドの決断でした

 昼食後。

 クリスは一人でカフェに来ていた。

 女性だけでも訪れることが出来る店とはいえ、一人で、しかも異国の服を着ている姿は浮いている。いや、浮いている原因は、それだけではない。


 店員や客からの囁き声と視線が集まる。だが、クリスは気にすることなく紅茶を飲む。

 そこに、店先から黄色い声が上がった。見惚れるようなため息と、感嘆の声がさざ波のように広がる。


 店内の視線を一身に浴びた美丈夫が、一直線にこちらへ来る。しかし、クリスのテーブルの前で動きが止まった。一瞬、息を飲んだような間の後、椅子に腰を下ろした。


「待たせたか?」


 浅黒い肌に、白のケリーマ王国の伝統的な衣装がよく映える。艶やかな黒髪が風になびき、深緑の瞳が微笑む。

 嫌味なほど男前のオグウェノに、クリスが淡々と答えた。


「いや、急に呼び出したのは、こちらだ」


「月姫の呼び出しなら、世界の裏側でも喜んでいくぞ」


 クリスがカップを置いて微笑む。オグウェノが店員に紅茶とケーキを注文した。


「おまえは私に甘いな。そういえば、イディはどうした?」


「店の外で待っている。二人で話したいことがあるのだろう?」


「あぁ。だが、イディに悪いことをしたな」


「それが仕事だ、気にするな。ところで、今日は髪の色を変えていないのか?」


 クリスが金色の髪を隠すことなく、背中に流している。深緑の瞳も隠していない。


「カリストが、神からの関与がなくなり“神に棄てられた一族”への嫌悪感は前より軽くなっている。と、言うからな。本当かどうか、実験してみた」


「それで髪を隠さず、カフェに来たのか? だが、なにかあったら……」


「その時はカリストが責任を持って、なんとかするだろう。それに“黒の一族”がいる施設からも、嫌悪感を軽くする細工をしたそうだ」


「それで、この程度の反応で済んでいるのか。オレは認識阻害があるから実感できないが、効果はしっかり出ているように見えるな」


 オグウェノが軽く店内を見回す。

 人々がチラチラとこちらを見ながら、ヒソヒソ話をしているが、あからさまな侮蔑や嫌悪はない。

 以前なら“神に棄てられた一族”を見ただけで、人々は逃げ出し、戸口を閉めた。店に入るなんて考えられない。


 オグウェノが実感していると、クリスが視線を外して恥ずかしそうに言った。


「あと、犬が自分以外の魔力が私の髪に付くのは嫌だ、と言うのでな」


「赤狼に、嫉妬が過ぎると嫌われるぞ、と忠告しておかないといけないな」


「しっかり言い聞かせてくれ」


「だが、そんな犬の言うことを守る月姫も大概だな。惚れた弱みか?」


 オグウェノは、からかうつもりで軽く言ったのだが、返事がない。

 不思議に思っているオグウェノの前で、クリスは赤面して頷いた。


「そ、それは……その、あぁ」


「んぅ!?」


 認めたクリスに、オグウェノが吹き出しそうになった。


「つ、月姫!? どうした!? なにか悪いものでも食べたか!?」


「どうして、そうなる!?」


 クリスがバンとテーブルを叩く。ただでさえ注目を浴びていたのに、客と店員の全員がこちらを向いた。クリスが慌てて姿勢を正す。軽く咳払いをして、すました顔を作った。


「と、とにかく、私はなにも変な物は食べていない」


「そうか。なら、ついに観念したか」


 オグウェノがどこか寂しそうに笑う。クリスが深緑の瞳をまっすぐオグウェノに向ける。


「おまえには、いろいろ助けてもらった。おまえがいなかったら、今の私はなかっただろう。ありがとう」


「もしかして、礼を言うために呼んだのか?」


「そうだが……いけなかったか?」


 クリスがきょとんとした顔で首を傾げる。オグウェノは苦笑いを浮かべた。


「ヘタな、ごめんなさいより、キツい気がするな」


「どういうことだ?」


 オグウェノがクリスの頬に手を伸ばす。


「諦めきれなくなってしまう」


「諦める?」


 クリスの頬をオグウェノの指が撫でる。


「赤狼となにかあったら、すぐに言え」


「なぜだ?」


「オレが月姫を迎えに行く」


「なら、おまえにだけは言えないな」


「ひどいな」


 二人が笑い合う。そこに店員が紅茶とケーキを運んできた。シンプルなスポンジケーキに、生クリームとフルーツがトッピングされている。


 オグウェノがフォークを突き刺し、豪快に口に入れる。


「この国のケーキは、上品な甘さだな」


「素直に甘さが足りないと言え」


「ま、この国はケリーマ王国ほど暑くなることもないからな。これぐらいの甘さで、丁度いいんだろう」


「だが、物足りない?」


「まあな」


 オグウェノが頷く。クリスが店員に声をかける。一礼した店員は、すぐに小さな瓶を持って来た。


「これで、どうだ?」


 クリスがオグウェノのケーキの上に小瓶を傾ける。中から黄金色のドロリとした液体が出てきた。


「ハチミツか?」


「そうだ」


 蜂蜜がたっぷりかかったケーキをオグウェノが食べる。程よい甘さに花の香りがする。


「うまいな」


「たまには、素直になることも必要だぞ」


「まさか、月姫に素直になれ、と言われる日が来るとは」


 オグウェノがクククッと喉の奥で笑う。その顔にクリスが頬を膨らます。


「どういうことだ?」


「言葉の通りだ」


 反論できないクリスがオグウェノを睨む。


「まったく。月姫は見ていて飽きないな」


「失礼なヤツだな」


「それこそ、いまさらだろ」


「それも、そうか」


 二人が穏やかに談笑をする。その光景を遠くから見ている目があった。




 翌日。

 クリスが朝食をとっていると、白い魔法騎士団の騎士服姿のルドが現れた。腰には、白い鞘に金で装飾が施された剣を下げている。


「おはようございます」


「お、おはよう」


 クリスが慌てて視線を外す。なんとなく癪だが、やはり魔法騎士団の騎士服がルドには一番似合っており、見惚れてしまう。

 沈黙に耐えられなくなったクリスが訊ねる。


「おまえが剣を下げるなんて珍しいな」


「いままでは、神の加護で手から剣が出せていました。ですが、これからは出せませんので」


「そ、そうだな」


 クリスは納得しかけて、ふと顔を上げた。


「だが、晩餐会は夕方からだろ? 正装をするには、早くないか?」


「少し用事がありまして。先に帝城へ行きますが、師匠は時間になったら来てください」


「あ、あぁ」


 なにかひっかかるものを感じながら頷く。ルドがクリスに手を伸ばしかけて下ろした。


「では、また後で」


「あぁ……」


 クリスは首を捻りながらルドを見送った。


※※※※


 帝城に到着したルドは、案内を申し出た若い執事を無視して、一直線に客人が宿泊する離れへ向かった。

 国外からの要人を迎える離れは、絢爛(けんらん)ながらも華美すぎず、品格が漂っている。汚れ一つない白壁と、紺色の屋根が特徴的な城だ。


 魔法騎士団の騎士服のおかげで、城内を自由に闊歩していく。離れの入り口を護衛している兵にも止められることなく、建物の中に入った。


 ルドが歩いていると、正面からイディを連れたオグウェノがやってきた。


「お、ちょうど良かった。いまから、おまえの所に行こうとしていたんだ」


「何用ですか? 穏やかに話をする……という格好ではなさそうですが」


「そうだな」


 オグウェノがニヤリと口角を上げる。


 ゆったりとしたケリーマ王国の伝統衣装を着ていることが多いオグウェノが、今日は違う服を着ていた。

 筋肉質な上半身をさらけ出し、腰に太い布を巻いている。下半身はゆったりとしたズボンを履いているのだが、腰回りと脛に鉄の鎧を装着している。あと両腕に布を巻き、籠手を付けていた。


「いい加減、ケリをつけようと思ってな」


「奇遇ですね。自分もそう思って来ました」


「よし、来い。鍛錬場の使用許可は、第三皇子から得ている」


「準備がいいですね」


 オグウェノは答えずにルドの隣を通り過ぎた。イディがルドを睨む。その気配を感じ取ったオグウェノが忠告する。


「イディ」


「ハッ」


 それだけで忠臣が敵意を消す。ルドは少し距離を開け、後ろを歩いていった。



 次の金曜日に朝昼夜と3話投稿して完結します

予定より長くなりましたが、ラスト3話は渾身の話になっています

 楽しみにしていてください!( ≧∀≦)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ