表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツンデレ治療師は軽やかに弟子と踊る(タイトル詐欺)~周りは二人をくっつけたい~   作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/76

それは、大きな土産と帝都への移動でした

 ルドとテーブルを挟み、無言で夕食を食べる。ミレナの料理は美味しく、懐かしい味がした。が、それよりも、この沈黙が気まずい。

 クリスはなんとか会話をしようと、話題を出した。


「食事を忘れるほど、面白い文献でもあったか?」


複製(クローン)について、調べていました」


 クリスの手が止まりかける。


 こうなることは目に見えていたのに、何故この話題をふってしまったのか……


 クリスが後悔する。しかし、ルドは食事をしながら話を進めた。


「興味深いことばかりでした。複製の分野はかなり発展していたようです。皮膚や心臓などの一部だけを作り出し、それを移植する治療法などもありました」


「なんだ、その治療は?」


「広範囲に火傷をした場合の治療法ですが。火傷をした人の皮膚を作り出し、それを火傷した部分に貼り付けたそうです。そうすると、作った皮膚がそのまま定着して、新しい皮膚になる、と。あと心臓の場合は、病気で正常に機能しなくなった時に、新しい心臓を作り出し、取り換えていたそうです」


「心臓を丸ごと取り換えるだと!? そんな治療法があるとは……それに火傷の治療法も興味深い。広範囲の皮膚再生には魔力をかなり使うし、加減が難しいからな」


「でしょう? 他にも……」


 クリスの知らない治療談議に花が咲く。気が付けば夕食を平らげていた。


「だが、それを実践するとなると、様々な道具が必要になるな。空中庭園の中に、その道具が残っているか……」


「この技術を魔法だけで再現するのは、無理ですからね」


「そうだな。どうしても、細かいところが……」


 様々な構想を練っているクリスを、ルドが嬉しそうに見る。


「複製の技術は、問題ないでしょう?」


「そうだな。それどころか、治療の幅が広がっ……」


 クリスが何かに気が付いて顔を上げる。ルドがにっこりと微笑む。


「師匠が懸念している問題は、大丈夫だと思うのですが?」


「なっ、なんのことだ!?」


 ルドが無言のまま笑顔でクリスを見つめる。クリスはガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。


「ね、寝る! おまえも早く寝ろ!」


 クリスが早足で食堂から出て行く。ルドはその後ろ姿を黙って見送った。




 翌日。

 オークニーに戻るため、クリスたちが荷物を車に移動させていると、カイがやってきた。


「準備ができたら帝都に行くぞ」


「「「「はぁ!?」」」」


 その場にいる全員の声がそろった。突然のことにクリスがカイに詰め寄る。


「どういうことだ?」


「どうも、こうも、こういうことだ」


 カイが親指で背後を示す。クリスはその先にいる人物を見て、額を押さえながら俯いた。


※※


 シェットランド領を飛び立ったセスナは、予定通りの時間に帝都の裏にある山中の湖に着水した。無事に接岸したところでドアが開いた。カリストが素早く板を下ろし橋を作る。

 人々が慌ただしく降りていく中、一人だけ優雅にセスナから降り立った。


「なかなか快適だったな」


 ふわりと巻き上げる風が白金の髪を揺らす。長い睫毛に縁どられた紫の瞳が宝石のように輝く。白くきめ細やかな肌に、絵画のごとく美しく整った顔立ち。


 美青年が満足そうに周囲を見回す。その背後には、今にも倒れそうな顔をした親衛隊の騎士が二人。


 その光景を、ルドは同情するように眺めていた。


「こんなモノが、あんな高さと速さで飛ぶなんて、信じられないですよね……」


「そうか? オレは面白いと思うけどな」


 ルドがオグウェノを半目で睨む。


「いえ、あれが普通の反応だと思います」


「そうか? けど、お姫さんも最初から楽しんでいたぞ」


「護衛としては、あんな状況で何かが起きた時、どうやって守ればいいのか、想像もできないんです。そんな状況、楽しめません」


「そういうことか。でも、イディは平気だったぞ?」


「イディは……筋肉でなんとかなる、と思っているのでは?」


「それはあるな」


 クリスが美青年に声をかける。


「セルティ、大丈夫か? フラフラしないか?」


「あぁ、まったく問題ないよ。空から帝都が見れて楽しかった」


「まったく。突然、シェットランド領に来て、セスナで帝都に連れて行け、というのだからな。強引が過ぎるぞ」


「仕方ないだろ。現帝たちが頑固で、こちらの話を聞かないのだから」


 悪びれた様子のないセルシティに、クリスが肩を落とす。


「だからと言ってシェットランド領(うち)は運搬屋ではないのだぞ。それにセスナを動かすのも、それなりに大変なんだからな」


「あとで、それ相応の品を贈るよ。楽しみにしていてくれ」


「はい、はい。期待している」


 クリスが軽く流す。セルシティは、ルドと会話をしているオグウェノに視線を向けた。


「それにしても、本当に約束通り第四王子を土産として連れて帰るとは思わなかった」


「記憶がない時の私とはいえ、約束は約束だからな」


 記憶を失くしてケリーマ王国に行くことになった時、飛空艇の見学にきていたセルシティにクリスが約束していたのだ。


「記憶を失くした時は驚いたが、それと同じぐらい驚いたよ」


「おまえのことだ。これぐらい予想範囲内だろ」


 セルシティが微笑む。


「なんにせよ、今は助かった。ケリーマ王国の政策は参考にするところが多くある。第四王子の存在は貴重だ」


「あぁ。それに、ここが正念場だ。この国にとっても、世界にとっても」


「そうだな」


 荷物を全て下ろしたことを確認したカイが、クリスに声をかける。


「忘れ物はないか? オレはシェットランド領に帰るぞ」


「一緒に来ないのか?」


「おい、おい。オレは引退しているんだぞ。これからのことは、若いもんに任せる。それに、セスナをここに置いておくわけには、いかないからな」


「確かに。ここは帝都に近いから人も多い。誰に見られるか分からない場所に、セスナを置いておくわけにはいかないな」


「そういうことだ。迎えの馬車が来る前に飛び立つ」


「気を付けてな」


「あぁ」


 カイがクリスを抱きしめる。


「忘れるな。おまえにはシェットランド領(オレたち)が付いている」


「……あぁ」


 クリスがカイの背中に手をまわす。

 いままで自分はこうして、いろんな人の温もりに守られてきた。けど、それを見ようとせず、受け入れようとせず、ひたすら一人で走って来た。でも、そのことに気づかせてくれた存在がいる。

 そのおかげで、心配してくれる心を受け入れることが出来るようになった。


「ありがとう」


 カイが軽くクリスの背中を叩く。


「番犬にも、それぐらい素直になれよ」


「……」


「ま、なにか困ったことがあったら言え。すぐに駆け付ける」


「頼りにしている」


「頼りにしてくれ。じゃあな」


 カイが颯爽とセスナに乗り、飛び立つ。

 しばらくすると、城からの迎えの馬車がやってきた。


「行くか」


 クリスたちは帝都へと移動した。


※※


 ルドの実家に馬車が到着する。赤髪の女性が満面の笑みで出迎えた。


「クリスちゃん! いらっしゃい!」


「おわっ!?」


 クリスが馬車から降りると同時に、抱きしめられた。思わずよろめいたクリスを、背後からルドが支える。


「母上、もう少し穏便に出迎えてもらえませんか? 師匠は移動の連続で、お疲れなんですから」


「あら、それは大変。お風呂の準備もしているから、ゆっくり休んで」


「あ、ありがとう」


「さあ、さあ、入って。夕食もたくさん準備したのよ」


「あ、あぁ」


 ルドの母、エルネスタに引きずられてクリスが屋敷に入る。カリストがルドの隣にきた。


「相変わらずですね」


「もう少し穏やかになっていただきたい……」


 ルドが額に手を当てて首を横に振る。


「それにしても、第四王子は最後まで叫んでいましたね」


「セルとベレンが強制的に連れて行ってくれて、よかったです。でなければ、これ以上の混沌(カオス)になっていましたから」


 オグウェノは迎えの馬車が来た時、クリスとともにルドの実家に行く、とずっと粘っていた。だが、セルシティの笑顔と、ベレンの圧により、強制的に帝城へ連行された。


 ちなみにクリスの場合は、ルドの実家に行かなければ、エルネスタが帝城に怒鳴り込んでくることは目に見えていた。そのため、ルドの実家以外の選択肢はなかった。


「師匠がゆっくり休めるといいのですか……」


 ルドは心配そうにこぼした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ