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14.野生の勘。

 「勿論、一歳の赤ん坊の記憶なんざ、覚えてるわきゃねぇ。俺だってそのくらいは判ってる。けど、俺を瓦礫の下から救い出してくれたのが親父さんなのは事実だ。俺の頭ン中には、俺の妄想かもしんねぇけど、あの時の親父さんの顔がこびり付いてる。俺にとっての"強さ"の原点なんだ」


トン。

 カイは自分のこめかみを突いて見せた。

 目を丸くしてじっと耳を傾けていたリューティアは、一瞬納得しかけ── ん?と眉を寄せた。


「──何で命救われたのに命奪う方に走っちゃったのよ」

「…あー…。その、なんだ…。こう、最初はマジで親父さんのああいう強さに憧れたんだよ。原点は親父さんなんだよ、けど、なんつーか、な? こう…。殴り殴られ遣るか遣られるかってのってさ、めちゃワクワクすんじゃん? 楽しいじゃん?」

「………………。」


 ──ただの脳筋戦闘馬鹿だった。


 えへ?

 笑って誤魔化そうとするカイの顔を、リューティアは残念なものを見る目で見つめ、小さくため息をついた。


 わかる様には、なれないかもしれない。


***


「──ィ。リティ」


 身体を軽く揺すられて、意識が浮上する。

 鳥の声が聞こえる。

 朝?


 リューティアが重い瞼を上げると、カイが見下ろしていた。思わず出かかった悲鳴を飲みこむ。

 一応、これでも元貴族の令嬢なのだ。それを抜きにしても、レディの寝顔を覗きこむとは、酷すぎやしないか。


「ちょ、やだ、離れて…!」


 家の主人が貸してくれたケットを口元まで引き上げて、片手でカイをぐいぐいと押すと、カイはきょとんとしながら押されるままに少し離れる。

 ああ、びっくりした。ドキドキする鼓動を押さえ、身体を起こす。一明り取りの窓から見える外はうっすらと白み始めてはいるもののまだ暗い。


「──どうしたの? まだ大分時間早いよね?」

「ああ、もう少しゆっくりしてくつもりだったんだけどな。なぁーんか嫌な予感すんだよな」


 カイは目を細め、戸口の方に視線を向けた。


 聞こえてくるのは小鳥の囀り、鶏の声。

 馬のブルル、という声も聞こえるが、これは納屋の隣の馬屋から聞こえて来る声だ。

 リューティアには何も判らないが、脳裏に連れ戻される恐怖が浮かんでしまう。


「わりぃな。こういう時は勘を信じることにしてんだ。出発すんぜ」

「う…うん。あ、家の人にお礼は──」

「メモ残してあっから。金は先払いしてる、問題ねーよ」


 ざっと音を立ててカイが立ち上がり、手を差し出して来る。

 リューティアはその手を取って立ち上がった。


***


 納屋を出ると、外には朝靄が掛かっていた。のどかな朝の風景があるだけだ。

 リューティアの手を引き、納屋を出たカイが不意に身体を屈めたと思ったら、グンっと景色が高くなる。


「ひゃっ!?」

「一気に森抜けんぜ。しっかり掴っとけよ」


 抗議をしかかったリューティアは思いの外真剣なカイの声に口を閉ざす。

 真剣な顔、だ。ふざけている様には見えなかった。スゥ、と細められた目には、見えない何かが見えているかのようだった。

 余裕綽々ののらりくらりとした表情が一変し、薄い唇の口元がキュ、っと引き絞られている。

 一瞬その顔に見惚れそうになる。


 ──ああ、この人は男なんだ。

 今さらながら、そんなことを思っていると、グンっと体が後ろに持っていかれた。一気に景色が流れ出し、身体が上下に揺れる。


「───ッ!?」


 またこれか───!


 一気に加速し駆け出したカイの頭にしがみ付きながら、リューティアは心の中で文句をぶちまけた。

 迂闊にしゃべると舌噛みそうだったから。


***


 カイとリューティアが納屋を飛び出してから数分後──。


 カイの勘は当たっていた。

 間もなくやってきたのは、ルフタサリが雇った私兵と、若い黒髪の執事だった。

 追手はゆっくりと馬を進める。

 まだ夜の明けきらない村の中に、人の姿はまだない。

 執事が手で合図をすると、私兵の男達は一斉に馬から降りて散っていく。

 執事は一人馬を進め、やがて一軒の家の納屋の前で足を止めた。


 執事は視線をじっと地面へと落とす。

 それからゆっくりと納屋へと視線を向ければ、馬から降りて納屋の中へと入っていった。


 納屋の中は薄暗い。納屋の奥に積まれた牧草の上には、無造作に畳まれたケットが1枚置かれていた。

 執事は目を細めると、牧草の方へと歩み寄る。

 男の手にしては美しい指先がケットに触れる。


 ──まだ、暖かい。


「何かあったか?」


 私兵の一人が納屋を覗きこみ、執事へと声を掛けた。

 白い指が畳まれたケットを払う。俯いた執事の顔は長い前髪に隠され伺う事が出来ない。

 ただ、普段は人形の様な表情の無いその端正な口元が、緩ゆっくりと弧を描く。


「──いいえ。何も?」


 ゆっくりとケットから離した執事の指先には、ダークブロンドの髪が1本、握られていた。

遅くなってすみません; いつもご閲覧・ブクマ有難うございます。感謝感謝ですー!

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