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知らぬが仏見ぬが秘事  作者: 紀士
2/2

何が怖いのか?(2)

「また言ってる。悠斗はさ、何が怖いの?」


そう聞かれた俺、冷牟田悠斗は考える、何が怖いのか

丑三つ時の闇の深さか?草や木の揺れる音か?出ると有名な真中トンネルか?

湿度が抜けた夜の匂いか?トンネルの陳腐な落書きか?

どれも怖くないな、では何が怖いのか


「何が起こるかわからないことだ」


見弥はニヤリと笑う、満足いく答えを引き当てたのだろう


「そうだね。恐怖って感覚があるとするならば、それは不安や心配、想像できない危険。でも夜のトンネルでは危険なものは何にもないでしょ?」


そうだ、身に迫る危機感は先ほどから警報のように耳元で鳴っている気がするのに、

現実的な脅威は目の前に何もない


「じゃあ何を怖がっているの?」


「わからん!」

余裕のなくなった俺は怒鳴る。どんどん怖さは増していくのに、恐怖の対象が見つけられない

そのことにさらに恐怖感が増す


「答えあわせといこうか。さあさあ目をつぶって」


「怖いから嫌だ」


「駄々をこねない!罰ゲームでしょ」


俺はゆっくりと目をつぶる

夜に出ると有名なトンネルで目をつぶる、途端周囲の音が大きくなって響く、トンネルから吹き込む風の音、車のタイヤが地面を噛む音、その中に線を引いたように響く耳鳴り


「ここからが本番さっき見たトンネルのイメージを細部まで想像するんだ」


ガシャン


そう言われて、俺は想像する

トンネルの上にある『真中トンネル』のプレート、上り下りの道路の間の植込み、ヒビの入った壁、そこに書かれた落書き、落ちている菓子パンの袋、鎧を着た人に、消えかかった電灯、埃かぶったガードレール


ガシャン


「ん?人?」


「おっ!何か見えた?」

見弥はとても嬉しそうに聞いてくる。それに少し気が散りながらも集中して細部をなぞる

そこには一欠けら異物が混ざっている気がする。『鎧を着た人』それは何の脈絡もなくトンネルの中、車道の上に佇んでいる


「鎧を着た落ち武者のような人影?がいるような気がする」


「落ち武者?どこらへんに?」


「トンネルから入って5メートルくらいの車道に」


「ふーん、あっまだ目は開けちゃだめだからね」

恐怖感で目を開けそうになったが、言われた通り想像すことは続けていると


俺の前方5メートル先で音が聴こえた。


ガシャンガシャン


同時に落ち武者が歩き始めた。土に汚れた胸当てに、血の滲んだサラシ、ひざまで泥汚れが目立ち、踏み出す足に鎧の草摺りが当たる


「近づいてきた。やばい逃げよう」


「うるさい。集中してもっとちゃんと見て」


「なに言ってんだよ、もう目の前にいるんだよ!」

目の前には無精ひげを生やした泥だらけの落ち武者がいる、怖い怖い怖い


パンッ


気がつくと目の前には何もいなかった。ただただ拍手の破裂音がトンネルに響いている


「さあ、何が見える?」

俺は言われてまだ自分が目を閉じたままだと気づく。


「目を開けて、トンネルを見てみて」

目を恐る恐る開けると俺は見られていた。声が出ない、突然のことに理解が追いつかない何だこれ


何だよこの目玉


トンネルの入り口にぎちぎちに押し込まれたように、大きな目が一つこちらを見ている


「うああああああ」

俺は即座に切り返し全力疾走で坂を駆け下りる、見弥は「足速やぁ」とか言いながら追ってくる、あの巨大な目と視線が合った恐怖で振り返れるわけもなく、全力で坂を下り、灯のあるコンビニに駆け込んだ


「どうかされましたか?」

と店員が怪しそうに聞いて来るので、「いや大丈夫ッス」と返して雑誌コーナーまで逃げ進む、数分後に見弥が「悠斗くん置いていくのはないわぁ」と言いながら店に入って来たので、雑誌コーナーのガラス越しに外を見たが、あの目玉は見当たらないのでホッとしていると


「見えた?」

と見弥が尋ねてくる


「何だよあの目玉、おれ目があっちまった」


「何なんだろうね。ハハハ、少し前からあの目玉がトンネルで出るようになったんだよね」

見弥曰く、趣味の夜歩きでトンネルに行った時に見つけたという。見ているだけで、トンネルからは出てくる様子もなく、目があった気がしても視点はどこか遠くを見ているという観察を見弥は楽しそうに話す


「あの落ち武者はどこいったんだ?」

と俺が聞くと


「そんなのはどこにもいなかったよ」


「ガシャガシャいってただろうが」

確かに聞いたあの音はまだ耳に残っている


「その音ってさ、いつから鳴ってた?」


「は?」


「僕は最初から、トンネルについてから中を歩いてる時もずっと鳴ってたよ?」


俺は思考がスローモーションになるような錯覚を覚えた、ゆっくりと世界の常識が変わるような、昔テレビで見た徐々に変わっていくクイズのような、そんな視界が歪むような不安定な感覚


「悠斗はその音か先にあって想像を引っ張られたんじゃないの?ガシャ音がしたから武者だ、音が続いたから近づいてきたって思ったんじゃない?」


確かにイメージ前から聞こえていた気がする。では何が発していた音なんだよ

足が無意識に震えてきた、歯の根も噛み合わずカチカチとなりだす


「じゃああの音は、あの目は何なんだよ」


「わかんない、怖いよね~」

ニヤリと見弥は笑う、あれだけ俺の恐怖を否定しておいて、それはずるいだろ

こいつとの賭け勝負は避けようと学んだ春日の夜の話


ご無沙汰です。視点変わって悠斗視点の話となっております。

混乱してしまったら申し訳ありません汗

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