何が怖いのか?(1)
「キミキミ、怖いっていうのは、知らないって状態からくる、ただの錯覚だと何度言えば分かるのかね。何年僕の親友やってるんだい?いい加減学習したまえ」
そんな大学教授が不出来な生徒に諭すような言い方で、僕は十年来の幼馴染を煽った
相変わらず、「怖い怖い」だの、「やばいめちゃくちゃ寒気がする」だの繰り返しているので、恐らく聞こえていないのだろう。
今、僕こと伊藤 見弥は幼馴染の冷牟田 悠斗とともに、市境で出ると有名なトンネルに来ている。
「大丈夫さ まだ何も見えてないから」と僕がいうと、
「見えてからじゃ遅いだろ!」と悠斗が怒鳴る
「ははっ、どっちにしろ見えないのなら、変わらないじゃないか」
「だから俺は怖いんだ!」
なんだ、ちゃんと聞こえてるじゃないか。
「そうだよ、『待つのが祭り』なんてことわざがあるように、祭りの最中より、準備期間のほうが楽しかったりするしね。人間、期待や不安は、実際の物事よりも大きく想定することが多いんだ」
深夜2時、"修行"と称した罰ゲームが行われていた。
新学期の小テストで、悠斗が「勉強はちゃんとしてるのか」などと、母親のようなことをしつこく聞いてくるで、面倒臭くなり、
「じゃあどっちが点数がいいか賭けをしようか」とふっかけた。僕が勝てば"修行"、悠斗が勝てば食べ放題ではない焼肉を奢ることとなった。
ちなみに、二人の学力の差は大差があるわけではない。
「人っていうのはおおよそ2タイプに分けることができると思うんだ」
と僕は歩道の街灯の下で指を二本立てる。
「一つは知らないものを想像で保管して、勝手に恐れたり、崇めたり、期待したりするタイプ。もう一つは、知らないものを知りたくてたまらなくなり、実際に体感体験するタイプ」
と人差し指と中指をプルプルさせながら、ニヤニヤする。
「日本人は前者が多そうだな」
「そうだね、そしてこの二つには大きな特徴がそれぞれある、
前者は盲目的で視野狭窄に陥りやすく、価値観が常識の域を出ない、
反して後者は価値観の変動が激しく、精神熟成が早い、
日本の教育は基本的には前者寄りで、好奇心よりも常識を優先って感じかな」
「へいへい 俺は頭のお固い平凡人間ですよ」
とプライドの高い悠斗は、少しカチンと来たように言う。
「だったら修業しないとね」
僕はニコニコ顔で言う。
「修行って具体的には何をするんですかねぇ大先生?」
「希望では見えるようになって欲しいけど、まずは意識改革からですね」
暗い林に挟まれた、片側二車線の車道の端を、僕たちはゆっくり歩きだす。
まだ、寒さも残る4月の夜の外出も修行ではあるが目的はそこではない。
目的地のトンネルは隣の北九州市と僕たちの住む『真中市』をつなぐトンネル。北九州から真中市に通ずる県道で、深夜でも車は一分に一台は通る。
「今日行くのは旧真中トンネルなんだろ? 入って大丈夫なのかよ、補導されて内申に響くのはごめんだぜ」
「この時間なら何もしてなくても、怪しまれれば補導だけどね」
「俺は老け顔だから大丈夫だ」
「僕の方は危ないかな」
僕の親友をやっていて、内申点を気にするところが悠斗らしいと笑いそうになる。
僕はあるゲームで見た、「最低単位修得で卒業を狙うという画期的アイデア」を実行中であり、学校からすれば迷惑な奴で、あまり評判も良くない。
変わって悠斗は成績優秀で教師陣の信頼も厚い、そんな腐れ縁の僕と悠斗ともう一人幼馴染で連んでいるが、今日は二人だけだ。
「大丈夫だよ 今日行くのは新トンネルのほうだから」
「え? 旧じゃなくてか?」
「そだよ〜、まあまあ、、ついて来なされ」
ぶつぶつ文句を言う悠斗をなだめながら、僕は言う。
すると間もなく、山に半円の穴を二つあけるたようなトンネルが見えてくる。
トンネルの前には貸しコンテナ倉庫があり、その裏の脇道を行くと、使われていない旧真中トンネルがある。
「こっちが旧トンネルに続く道か、暗いな」
「ほら先に行くよ」
脇道から少し行くと、現在使われている真中トンネルある。
僕たちは北九州市側からくる右車線側にいる。
夜なので暗いが、街灯も明るい。
トンネル内もところどころ電気が消えているが、別段普通のトンネルと変わらない。
「それで、何をするんだ?」
「前に教えた見えるようになる方法って覚えてる?」
「ああ、あの自分の家をできるだけ細かく想像して、歩き回るてやつか?」
「そうそう、それそれ 『マインドパレス』っていう記憶方法らしいんだけれど、この前海外の探偵ドラマで見てて、感覚が近いって気がしたんだよね」
「じゃあ俺はここで、城でもイメージすればいいのか?」
「違う違う、イメージするのはここだよ」
と言いながら僕は歩き出す。
「このトンネルをか?」
「そうだよ。これから向こうまで通るから、想像しやすいように細かく観察するんだよ」
二人で深夜のトンネルの中に入る
トンネル内は薄暗く、ゴミや落ち葉が所々落ちており、お世辞にも綺麗とは言えない。
「これなんて書いてあるんだろうな」
「チーム名とかじゃない?こういう落書きって同じの描けなさそうだよね」
などと、美術2の僕は言う。
「この目みたいな、二重丸に棒が刺さった落書きはなんなんだ?」
「え?知らないの?」
そうこうしていると反対側についた。
話をしていると、3分くらいの時間でトンネルの反対側についてしまう。
北九州側の出口には、工事で使うような大きな重機置き場があり、その陰に隠れて旧トンネルの出口が見える。
「では引き返しましょう!」
そう言って二人で引き返す。
真中市側につくと悠人が、
「うわ!なんだこれ、来た時は気付かんかったぞ」
とトンネルを出た時、左の方を見て言った。
「最初からあったじゃないか。よっぽど悠斗の目は不気味な物を見たくないようだね」
そこにあるのは、岩の様な地蔵で『ごんろく地蔵』と木の看板に書いてある。
「昔々、このトンネルを掘ってる時に人骨が出てきたとさ、その時に供養のために立てたのがこのお地蔵様なんだって」
「うわぁ~、怖いな」
「また言ってる。悠斗はさ、何が怖いの?」
と僕は悠斗に不思議そうに聞いた。
初めての投稿です。
ゆっくり更新して以降と思いますので、気長にお待ちを~