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縁側にて  作者: 新庄知慧
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13/16

狸再来、そして死体は生きる・・・死体として!

それは、ガラン、と、瓦礫の山の一角が崩れ落ちてしまう音だった、アンバランスな形で瓦礫の一角を構成していた天井材が、自分の重みに耐えかねて、崩れ落ちてしまった。


そこから顔が現われた。狸だった。瓦礫から狸が顔だしたのだ。まん丸い顔、大きな横目、とがった口の、おなじみの顔。


「とうちゃん、いっぱい、やっか?」


地震のショックからだろう。狸は、みずから声を発して、そんなことをいい、従前より手にしていた徳利から、酒を誰かにふるまおうとしていた。


「そこのあなた、いっぱい、やらんかにい?」


語りかけている。その声は何かに脅えていた。誰か仲間を求めていた。しかしこの部屋には、「死んだ僕」しかいないし、瓦礫の下に埋もれているのは「僕の死体」であり、生き物は誰もいないのだ。


「ずうっといっしょにいた、そこのあなた。いるんでしょ、そこに、いるんでしょ、いっぱい、やらんか、にい?飲まし、飲まし、酒飲まし」


死んだ僕がそこにいたのを知っていたのか?「知ってますわよん」という風に、傾げた顔の大きな横目で、死体の埋もれた瓦礫のあたりを見ていた。


「今だって、あんたと、わちきは、友だち、だよ」


その目の中に、またもや星が無数に光っていた。「よっこらしょ」狸は、死体の埋もれた残骸の上にカワユイ視線を、いよいよ投げかけ、徳利から、酒をどくどく注ぎかけたようだ。


「ほわはははははは」


狸が申し訳なさそうに、カワユク笑った。

そして次の瞬間、誰かが、瓦礫の山をぶちやぶり吹っ飛ばし、底の方から、噴火するようにして、爆発したかのようにして、出現した。


「!」


「死んだ僕」は度肝を抜かれた。


彼は後ろ姿で現われた。それは僕の死体であった。腐り果てたはずの僕の死体が、一糸まとわない姿で復活し、どどーんと現われた。


僕は自分の死体の裸体になんか全く自信はない。後ろ姿で現われたのさえ恥ずかしい。しかし平気で裸で彼は立っている。鉄人二十八号みたいなガッツポーズさえ作って、何に対してか知らないが、その存在をアピールした。

馬鹿みたいだった。


くだんの「たぬき」は、あいかわらず横目で見ていた。狸は石づくりだから、そのカワユイ表情は、変えることはできない。そのままの表情で、死体に向って語った。


「あんたは、いよいよ、これからが、あんただよ」


僕の死体は動いた。戸惑ったり澱んだりせずに、動いた。


床に倒れていた洋服箪笥から、衣類を取り出した。これだけ時間が流れ、腐りきった空気の中にいたのに、衣類たちは予想外に新鮮でパリっとしていた。アンダーシャツといいトランクスといい、ホワイトシャツといい、スーツといい、みんなパリっとしていて不思議だった。


スーツの色は白。新婚旅行でニューヨークにいったときに買った奴。ちょっと派手なので、それまで着たことがなかったものだ。


初めてそのスーツを着こなした姿を鏡に映して、死体はぴたりと動きを止めた。


電流が体中を流れていったかのように静止した。それからガクンと身体が揺れて、死体はまた動き出す。部屋の外へと歩きだす。


「死んだ僕」は彼とともに動くことを許された。ものすごく久しぶりに、死んだ僕は、外へ出る。


・・・・つづく


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